ボクシング世界王者 内山高志の強さの秘密
日本には、現在8人の世界チャンプがいるが、中でもラスベガスのマーケットで通用する可能性を秘めたボクサーの一人が、先日の防衛戦で見事KOでV7を果たしたWBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志だろう。内山のレバーを狙い打ちした、左ボディには殺意と強烈なインパクトがあった。そして、悶絶する挑戦者を見下ろす鍛え抜かれた肉体は美しかった。 内山の強さの秘密を探っていければ、一人のフィジカルトレーナー(ストレングス&コンディショニングコーチ)に辿り着く。 土居進さん、42歳。 土居さんは、住宅関係のサラリーマンから29歳で一念発起してトレーナーの世界に舵を切った異色の人。順天堂大の大学院に通い直して、トレーニングの理論と肉体のメカニズムの基礎を学び、K-1で活躍した魔裟斗の専属トレーナーを経て、現在は、内山以外にもWBC世界フライ級王者、八重樫東(大橋ジム)ら多くの格闘家のパーソナルトレーナーを務めている。 その土居さんの元を内山が初めて訪ねたのは2010年1月、彼が世界初挑戦する、わずか2週間ほど前だった。脅威のパンチ力ゆえに、スパーリングのパートナーに困り、限界まで自分を追い込む練習ができていなかった。そういう内山の状態をみかねた関係者が「土居さんのトレーニングで追い込むことができないか」と打診してきたのだ。 「試合前のわずか2週間でできることは限られていました。怪我をさせると台無しになるので、故障の可能性が低い自転車を漕ぐマシン「パワーMAX」を使って、持久系のトレーニングだけをしました。追い込むという練習で、辛さを体験しておけば、試合で同じような辛さに対面した時に耐えられます」。 パワーMAXとは、関係者の間で‘吐き気製造マシン’とか、‘乳酸製造マシン’と恐れられているほどの負荷のかかる固定された自転車漕ぎのトレーニング機器だ。全力で漕ぐので、ボクシングのような3分間という限られた時間内で、ラッシュとディフェンスを繰り返すような競技に最適な、スタミナ養成マシンである。 土居さんの指導する練習は過酷を極め、妥協は一切許されない。練習は、多ければ週に3度。ハイライトは、このパワーMAXマシンと、ボート漕ぎマシンの2つを連続で消化する超スタミナ系のトレーニングで、心臓が破裂するかと思うほどの運動量で追い込まれる。 心拍数は限界まで上がる。内山のトレーニングを一度、取材した際には、「本当にキツイ。12ラウンドのスパーをするほうが、どれほど楽か」と泣きが入っていた。