日本の「すしロボット」が、なぜ海外で売れる? 高級すし店の大将が「無限の可能性」を感じたワケ
今や全国に4000店以上あるとされる回転すし。最近は回転しない、直送レーンを使う店が増えているが、それらを含めて、国内では8000億円近い市場規模を誇る。 【画像】すしロボットのつくったシャリ、ロボットの外観、ロボットの構造、すしロボットを使った高級すし(計8枚) 近年は、大手チェーンの海外展開が進んできて、「世界の回転すし」へとパワーアップしつつある。 このような回転すしの目覚ましい発展を支えるテクノロジーの一つに、自動でシャリを握る「すしロボット」がある。シャリ握りマシンとも呼べるすしロボットの発明なくして、回転すしの業態は成立し得なかった。回転すしの登場によって、庶民にとって特別な日にしか食べることができなかった、高嶺の花であったすしが一気に身近な存在になった。 すしロボットのパイオニアにして、国内約8割という圧倒的なシェアを誇るのが、鈴茂器工(東京都中野区)である。 しかも同社では、すしロボットにとどまらず、牛丼などの丼物に欠かせない「ご飯盛り付けロボット」、おにぎり向けの「おむすびロボット」といった米飯加工機器を次々に開発。大手チェーン「やよい軒」の無料サービスであるライスお代わりに使われるロボットも、鈴茂器工製が採用されている。 2021年には飲食店向けのPOSシステムやセルフオーダーシステムを手掛ける、日本システムプロジェクト(東京都新宿区)を買収。ホールの注文や会計までをカバーするようになった。このように、鈴茂器工は外食、スーパー、テークアウト専門店、食品工場を支えている。 鈴茂器工の米飯加工機器は、和食ブームを追い風に、今や世界約80の国と地域に導入されている。
銀座の高級店とコラボ
鈴茂器工は10月1日、東京・銀座の人気高級すし店「はっこく」にて、コンパクトな新型すしロボット「S-Cube(エスキューブ)」のメディア向け発表会を開催した。 当該コラボイベントでは、鈴茂器工の鈴木美奈子社長と、はっこくの大将・佐藤博之が出席。 エスキューブに惚(ほ)れ込んだという佐藤氏が、「銀座の高級すし屋では皆、これを欲しがるのではないか。私の写真を貼った“はっこくモデル”をつくってほしい」とまで発言。はっこくの酢飯を使って、エスキューブから出てくるシャリ玉にネタを乗せて、すしにして提供するパフォーマンスを行った。 修業を積み、しかも高級店が連なる銀座で成功している店主の大将が、すしロボットを操る風景は何ともシュールである。 エスキューブは特に海外の店に向けて、客席からすしの製造工程がよく見えるように、デザインにもこだわって開発したという。 エスキューブは325(幅)×367(高さ)×352(奥行き)ミリ、ほぼキューブ状で、炊飯器のように手軽に扱えるすしロボットを目指した。デザイン面では、「プリンタのようだ」と言われることが多い。コンパクトなので使わない時は、棚などにしまっておける。重さは13.2キロと、女性でも持ち運べるほどだ。 ご飯は約1升が入り、約260貫のシャリ玉がつくれる。1時間に最大1200貫が製造できるが、これは通常の回転すしなどで導入されているマシンの4分の1の性能。しかし、実際にシャリ玉が出てくるスピードを見てみると、3秒に1貫なので、1~2人でサイドメニュー用に使うには十分な速さだ。シャリ玉を取らないと、そこで自動的にストップするから廃棄ロスも抑えられる。 鈴木社長は、「海外ではこれまでロールすしが主流だったが、和食やラーメンの店で、握りすしをメニューに加える店が増えている。すしはお客さまに喜ばれ、単価アップに貢献するが職人を雇うのも大変。そこで、値段を従来の半額ほどに抑えたコンパクトなシャリ玉ロボットをつくった」とのことだ。 エスキューブの価格は非公表だが、従来機の半額ほどでも、家庭で気軽に買えるような金額ではもちろんない。車1台を買うくらいの投資が必要。しかし、職人を雇うよりも、はるかに安い投資でレストランに導入できる。銀座の高級店が認めたクオリティーで、シャリ玉がつくれるのであれば、これから海外で爆発的にすしが普及するのではないだろうか。