民主主義を揺るがすフェイク情報~米国大統領選に見る影響力の実態~【調査情報デジタル】
フェイク情報が怖いのは人々の投票行動を変容させる可能性があるためだ。私は2020年に、2人の政治家に不利なフェイク情報を提示し、読む前後で人々の支持の分布がどのように変化するか、実証実験を行った。その結果、少なくない人が誤情報を知ってその政治家への支持を下げていた。これは政治的イデオロギーに関係なく両方の政治家で起こっていたのである。 さらに、弱く支持している人ほどフェイク情報を読んで支持をやめることが明らかになった。このことはフェイク情報が少なからず選挙に影響を与えているということを示唆している。 なぜならば、弱い支持をする人というのは支持層の中での多くの割合を占めるためである。浮動票とも言えるような弱い支持層がフェイク情報で支持しない方に流れるということは、選挙結果に少なくない影響を与えていることを示している。 ■老若男女騙されやすく、家族・友人との会話でさらに拡散 私はGoogle JapanとInnovation Nipponという実証研究プロジェクトを推進しており、近年はこのフェイク情報問題をテーマの1つとしている。2024年に発表した最新の研究成果を紹介しよう。 研究に当たっては国内で2022年から2023年にかけて実際に拡散したフェイク情報15件について、人々の真偽判断行動や拡散行動を調査した。調査は2万人を対象にスクリーニングした上で、いずれか1つ以上のフェイク情報を見聞きした人3700名の回答を分析した。 真偽判断行動について分析した結果、フェイク情報を見聞きした人の中でその誤りを認識していた人は加重平均でたった14.5%に過ぎなかった。51.5%は正しいと思うと信じており、残りはわからないと判断を保留していた。 しかも年齢別に見ても特に傾向は見られず、若い世代も中高年以上も同程度に騙されていた。このデータが示すのは、フェイク情報はSNSを多く利用する若者だけの問題ではなく、老若男女問わず大多数の人々がフェイク情報に騙され、その真偽を見極めるのが困難であるという状況である。