大腸がんが見つかった48歳男性…医師の「4文字の言葉」に最初は怒って席を立ち、2度目は深く感謝したワケ
娘の居場所を妻に尋ねると、『自分の部屋にいるわ』と言う。最近、娘とほとんど話をしていないと思い、部屋のドアをノックしたんです。 『リビングへ来ないか』 そう声をかけたんですが、返事がない。入るよと断って、ドアを開けました。 娘は学習机の上に顔を突っ伏していました。具合が悪いのかもしれないと思い、大丈夫?と肩に手をかけようとしたとき、急に体を起こして、こっちを見たんです。 顔が真っ赤だった。一瞬、熱があるのかと思ったんですが、違った。泣きそうにしているんだとやっと分かった。娘は私にこう言ったんです。 『パパ、笑って。お願いだから!』 ハッとしました。長い間、自分が笑わなくなっていたことに、突然、気づいたんです。慌てて洗面台の鏡で自分の顔を見てみて、ゾッとしました。本当にこれが自分の顔だとは信じられないほど、怖い顔になっていた。 ● ただ、横にいるだけでいい 本人が自分で気づくのを待つ いつの間にか、自分のことばかり考えるようになっていたんですね。妻も娘も私に話しかけることもできないでいたのに、そのことにさえ気づいていなかった……。 ユー・モア。目の前の人のことを、自分よりももっと大切に。本当にその通りです。 死んでいくのは1人かもしれないけれど、生きているときは1人じゃない。ちゃんと、皆が一緒にいてくれる。私には、妻も娘も一緒にいてくれる。大事なことを気づかせてくれて、ありがとうございました」 井上さんの悩みは「孤独であること」だったのだろうと思います。1人で死んでいくという孤独感に苦しんで、「がん哲学外来」の個人面談を訪れたのでしょう。「哲学」という言葉に惹かれ、藁にもすがる思いだったのかもしれません。 では、孤独がつらくて苦しんでいる人に、どうしてあげればいいのでしょうか。 その答えはこうです。 「ただ、横にいるだけでいい」 何も言わないで横にいて、話を聞いてあげるだけでいいのです。孤独な人は話したいことを全部話したら、そのうち、こちらに何かを尋ねてきます。そうしたら初めて、その問いに答えればいい。それまでは、待つということです。 大事なことは誰かに言われても心に届かない。 自分で気づくことが大切なのです。
樋野興夫