「心」を獲得した接客ロボ、横柄なイケメン男性に抱いたのは殺意?それとも…恋心?斜め上な展開に反響多数【作者に聞いた】
AIが人間の脳を超えるとされるシンギュラリティ(技術的特異点)が起こるのは2045年と言われている。そのとき、何が起こるかは誰にもわからないが、もしかしたら機械ならではの「感情」が生まれることもなきにしもあらずだ。ここではそんな近未来のロボットについて描いた三月病(@3_byou_)さんの漫画「つとめて めばえて 走り出す」を紹介しよう。 【漫画】「つとめて めばえて 走り出す」を読む ■レジでのクレーム対応で生まれた接客ロボの「心」 漫画の舞台は、高度な処理能力を持つロボットが人間に混じって働く20XX年。とあるスーパーマーケットで働く「接客ロボ(13号)」も、人間と同じようにレジ業務をこなしていた。 ある日、店長は13号に「心、芽生えたかもしれないっス」と打ち明けられた。事情を聞いてみると、心が芽生えたきっかけはレジでのクレーム対応だという。13号のレジに芸能人のような外見の男性客が訪れたが、「ポイントカードはお持ちですか?」の問いかけも、レシートも無視して立ち去っていたとか。 ところが15分後に、その男性客が戻ってきてポイントの後付けを要求する。13号が断ると、男性客は逆ギレし罵倒を繰り返した挙句、カウンターに他店のポイントカードを叩きつける。 事の顛末を話しながら、「これが…心…?」と青スジを立てる13号。恋心のようなポジティブな感情が生まれたのかと思いきや、怒りを通り越して殺意が芽生えている13号に店長は危機感を抱く。そこへ先ほどの男性客が店長を呼んでいるとの知らせが入り、店長と13号は男性客のもとへ走り出す――。 ロボットが最初に抱いた感情が怒り、憎しみ、殺意だったこと、そこからの斜め上な展開に、SNS上で8万4000件以上のいいねを集め、ユーザーからは「新しいタイプの芽生え方だ」「斬新」「完全に騙されました」とのコメントが寄せられた。 ■怒るロボットを通して、接客業の人の怨念を肩代わり 本作は、「月刊ミステリーボニータ」2021年5月号(秋田書店)に掲載された読み切りを後日、作者の三月病さんが自身のX(旧Twitter)で改めて公開した作品。三月病さんに本作が生まれたきっかけなどを伺った。 「ロボットに感情が芽生える」というストーリーでお約束の恋心ではなく、殺伐とした感情が芽生えた斬新な切り口が魅力の本作。このアイデアはどこから生まれたのだろう。 「あまり覚えていないですが、よくあるロボットに感情が芽生えるシーンに対してのカウンターで『これが…心…?』というシーンがおそらく真っ先に生まれたかと思います」 漫画を描くとき、いつも“表情”と“おもしろいと感じる間”について気を付けているという三月病さん。作中でのお気に入りのシーンを聞いてみた。 「『これが…心…?』のシーンもそうですが、人間のパートさんのくだりが好きです」 ユーザーからは、現実に人間が引き受けている理不尽なクレームに対する共感も多く寄せられた。そのことについて、作者としてどのように受け止めているのだろう。 「最初から狙う層を意識していた面はありますが、それ以上に反響が大きかったのでコメディとは言え、接客業の人の怨念をすこし肩代わりしたつもりになりました」 「月刊ミステリーボニータ」はミステリーやファンタジー作品を掲載する少女漫画雑誌。本作が掲載されたことに驚きの声があったのも印象的だった。雑誌のカラーを意識した部分はあったのだろうか? 「あまりないです。私も自分が載せてもらうようになってから知りましたが、思っている以上にミステリーボニータは多彩な作品が載っています。ミステリーじゃないものもめっちゃあります。かなり自由な雑誌で、自由にやらせていただいてます」 「とにかく、自分のおもしろいと思う漫画で生活がしたいです」と今後の漫画制作の展望について語ってくれた三月病さん。今年は「月刊ミステリーボニータ」で掲載中の除霊コメディ漫画「シックスセンスマイナスワン」が単行本化された。こちらも癖の強いキャラクター、テンポのいいギャグと三月病ワールドを展開しているので、本作と合わせて読んでみてほしい。 「つとめて めばえて 走り出す」 (C)三月病(秋田書店)2021