100年前より安全になったとは言えない--首都圏に潜む、地震火災リスクを考える #災害に備える
火災からの避難が下手になっている現代の日本人
――最後は「避難」について伺いたい。 「関東大震災で焼死した人の中には、建物に閉じ込められたり、避難途中に橋の焼失や落橋で逃げられなくなった事例のほかに、安全な避難空間だと思っていた場所で亡くなった事例などもあります。こうしたことを教訓に、日本は燃えない橋を造り、安全な避難場所を造り、さらに避難路の周辺を不燃化するといった取り組みを100年間続けてきました。これによって、避難のためのハード性能は相当向上したと考えていいでしょう」 「しかし、ソフト性能は低下しているかもしれない。つまり肝心の避難する人たちは火災からの避難が下手になっている可能性があります。実は、火災からの避難というのは他の災害と比べても非常に複雑で難しい。というのも、全員が一律同じ行動をすれば良いというわけではないからです」 ――単純に、みんなが火災現場から離れるというだけではダメなのか。 「火災からの避難は、諦めが早すぎてもよくないし、諦めが悪すぎてもよくないという難しさがある。諦めが悪すぎると、火災と火災に挟まれたりすることで、逃げ道を失って命を落としてしまう。しかし、延焼にも絡む話ですが、諦めが早すぎてみんなすぐに逃げてしまうと、火災の被害がより拡大し、地震で家に閉じ込められた人や、高齢者や障害のある人など、避難に助けを必要とする人を助けられないということも起こりうる。適切なタイミングまできちんと初期消火や飛び火警戒などを行い、自力での避難が困難な人を救助し、そして適正なタイミングで逃げる、というような非常に難しい対応が求められますし、そのように活動することで被害を最小化することも可能なのです」 「もう一つ、特に大都市においては大きな課題があります。関東大震災の時、東京市の人口は約200万人なのですが、避難途中の橋などで子供や老人などが圧死する群集事故が発生しています。例えば東京市の相生橋や横浜市の吉田橋などでこのような事故が発生していますが、現在の東京都は人口が1400万人くらいいるなど、100年前と現在では人の多さは桁違いです。特に東京の昼間人口は多い。このような群集事故が首都直下地震の時に発生する可能性も少なくないのではないかと見ています。これも100年前と比べて、悪化した点と言えるでしょう」