100年前より安全になったとは言えない--首都圏に潜む、地震火災リスクを考える #災害に備える
都市大火の抑制には成功したが、地震火災には通用しない
――「消防」についてはどうか。 「関東大震災の火災被害や戦時中の空襲の被害を受け、戦後、日本は消防力を充実させました。その結果、大火の発生頻度は1970年前後に激減しています。ちなみに、大火というのは1万坪以上、つまり3万3000㎡以上の火災を指します。大火が激減しはじめた1970年前後は、消防の常備化率を急激に高めた時期と重なります」 「日本は、都市をできるだけ難燃化するとともに、どこで火災が起きたとしてもすぐに消防車と消防士を派遣するという戦略を立てました。つまり、延焼するまでに時間を稼ぐような都市整備をしつつ、消防車と消防士が四方八方から向かわせて、寄ってたかって火を消す社会制度を構築しようという合わせ技の戦略です。これは一般に『8分消防』などと言われますが、この社会システムが実装されたことで、実際に地震時を除いた都市大火は、1976年の酒田大火以降、約50年発生していません。」 ――戦略が成功した。 「しかし、このシステムが通用しないケースがあります。それは同時多発的に火災が発生した場合です。つまり、地震火災の時は力を発揮できないのです。1995年の阪神淡路大震災の時、神戸市長田区では全部で13件の火災が発生しましたが、長田区の消防署管内で動けるポンプ車の数は5台のみでした。13件の火災を5台で消さなければいけない状況だった。当然、すべての火災を消すことは難しいわけです。加えて、地震時は帰宅困難者や家族を送迎しようとする自動車で歩道や車道に人があふれ、大渋滞が発生していることも想定されます。倒壊家屋によって道が塞がれている場所もあるでしょう。水道管が揺れで壊れて、水が出ないかもしれません。つまり地震時は、平常時のように消防車が迅速に到着し、活動することは十分に期待できない」 「となると、個人や地域で初期消火をしなければいけない。関東大震災の時は東京市全体で134件の出火が発生しているのですが、40%程度は初期消火されていて、そのうち6割は公設消防以外が消火しています。しかし、近年の地震火災を振り返ると、強震時の初期消火は難しいことがわかっています。公設消防の力が向上した半面、火災を自分たちで消すという意識が希薄になってしまった可能性もあります。地域コミュニティの喪失や少子高齢化などを背景に、この部分はさらに今後悪くなっていく可能性もある。戦後に作り上げてきた都市大火を起こさないためのシステムが機能せず、個人や地域の初期消火能力も落ちていくとすれば、消防という観点でも楽観視はできません」