「大幅資源回復の見込み」でも山積するクロマグロ管理の課題、変わらぬ不正・隠ぺい体質でマグロが食卓からなくなる
求められる徹底した監視取締体制の構築
大間の事例は、おそらく「氷山の一角」であろう。筆者自身、定置網にかかってしまったクロマグロを死んだまま投棄した事例などを仄聞することがある。また水産問題に詳しい元日本経済新聞編集委員でジャーナリストの樫原弘志氏は「大中型まき網漁業によるクロマグロ漁獲のごまかしが疑われる」とも指摘している。 ここで必要なのは、他のマグロを管理する国際的な漁業管理機関などでも取り入れられている徹底した監視取り締まり体制の早急な構築である。特に、大型でクロマグロの漁獲の半数近くを占める巻網漁船に対するオブザーバー乗船は喫緊の課題である。
監視取り締まり体制は何も、人にばかり頼る必要はない。実際、ミナミマグロを管理するCCSBTでは、オブザーバーは船上に物理的に配乗された人間によらなくとも、電子モニタリングシステムによっても代替し得ると規定している(「CCSBT 科学オブザーバー計画規範」)。いつ、どこで漁獲したかについても、漁獲時にPC、タブレットやスマートフォンから入力し、電波がつながった時点で自動的に送信されるようにしておくなどIT化を進めることができるだろう。 改正された漁業法に基づく太平洋クロマグロ個体数の漁獲報告についても、「30キログラム以上」という限定を取り外すべきである。法の施行にしても、今年度中に実施すべきであろう。 国際的にも、日本は監視取り締まり体制の構築に対してリーダーシップを発揮すべきである。ICCATやCCSBT、あるいはWCPFCの中緯度地域に比べて監視取締体制が著しく見劣りしているのは、繰り返しになるが、この地域を管轄しているWCPFC北小委員会および同委員会で中心的役割を果たしている日本側の怠慢である。
改められるべき隠ぺい体質、高められるべき透明性
今回の太平洋クロマグロ増枠に関しては、マスコミの報道はおおむねこれを「資源管理の成功」として歓迎する論調であった。確かにこれはその通りなのであるが、拙稿で指摘したようなマイナスの側面について触れたのは、先述の樫原弘志氏による論考などにとどまっていた。 それはなぜか。水産庁が参加者に会議期間中のかん口令を敷き、マスコミに対する会議の結果の報告をほぼ独占し、相当数の記者がそこでのバラ色の内容のみに基づき記事を書いてしまったからである。樫原氏によると、マスコミは「会議冒頭のカメラ撮影の機会を除いて会場の釧路市観光国際交流センターの建物に入ることさえ禁止」されたそうである。 この会議で一週間かけて話すことと言えばマグロの漁獲枠などにとどまる。この内容のどこに会議終了まで隠し通さなければならないほどの国家機密があるのだろう。 この会議で終了に際して日本代表は特に発言を求め、「日本政府が会議終了後に開催するマスコミ相手の記者会見まで、会議の内容は一切に表に出さないように」と口止めをしたことは、会議に参加した筆者にとっても驚きであった。特定の政府の記者会見まで会議の内容を漏らしてはならないというのは、WCPFC議事手続規則のどこに規定されているのであろう。隠ぺい体質が図らずも暴露された瞬間であった。 隠すのではなく、透明にし、明らかにする。それを確保するためのメカニズムを構築する。それは漁業管理にとっても極めて重要な点である。それなくして、確実な漁業管理は覚束ない。太平洋クロマグロの管理に関して、その達成の道はいまだ途上である。
真田康弘