「大幅資源回復の見込み」でも山積するクロマグロ管理の課題、変わらぬ不正・隠ぺい体質でマグロが食卓からなくなる
―― クロマグロがより身近に ―― そんなニュースが今年の夏のニュースを飾った。太平洋クロマグロの国際的な管理を話し合うため7月に北海道・釧路で開かれていた「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)・全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)合同作業部会」および「WPCFC北小委員会」で、太平洋クロマグロのうち30キログラム(㎏)未満の小型魚の漁獲枠を1割増、大型魚の漁獲枠を1.5倍増とすることを柱とする案が合意されたからである。 【画像】「大幅資源回復の見込み」でも山積するクロマグロ管理の課題、変わらぬ不正・隠ぺい体質でマグロが食卓からなくなる 特に問題がなければ12月に開催予定のWCPFC本委員会で、北小委員会で合意された案が正式に採択される。日本の大型クロマグロの漁獲枠は現在の約5600トンから約2800トンの増加となる予定だ。
「増枠」を求めた日本
太平洋クロマグロに関しては、2010年代初めに資源が危うい状態にあることが認識されるようになった。この資源の国際的な評価を行っている「北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)」は、親魚の資源量(「産卵親魚資源量」と言う)が初期資源量比で約4%と資源状態が劇的に悪化しているとの評価を下したのである。 これを契機にWCPFCの下で資源管理が強化され、30キログラム未満の小型のクロマグロの漁獲量を漁獲が盛んにおこなわれていた2002~04年の漁獲量比で半減、30キログラム以上の大型マグロは02~04年水準に抑制することが15年にWCPFCで合意されるとともに、遅くとも34年までに初期資源量比20%に資源回復させるという目標が17年にWCPFCで採択された。 「初期資源量比20%」という回復目標に対して、日本側は「資源がそこまでの水準になったことは漁獲統計がある1950年代からみてわずかしかない」などと言って頑強に反対した。しかし、資源がこれほどまでに悪化した現状へのNGOや各国の強い圧力により、渋々受け入れを余儀なくされた。「外圧」そのものと言ってよいだろう。 それからわずか数年で、クロマグロは資源回復の道を歩んでいるようである。先ほどの「北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)」によると、資源は劇的な上昇カーブを描き、日本側があれほどまでに抵抗した「初期資源量比20%」の水準に親魚資源量が回復したと推定、ISCは漁獲枠の増加が可能と勧告した。 この7月の釧路での会合でも、増枠自体に反対の声はほとんどなく、大型マグロの漁獲枠1.5倍増も、この資源にあまり経済的利害関係がなく資源保護的な立場を取りがちな米国が提案したものであった。これに対して日本は大型魚2.31倍増、小型魚3割増を求める提案が出したが、これほど大幅に増加させれば資源が減少に転じる可能性があるとISCが指摘しており、全く受けられるものとはならなかった。 筆者もオブザーバーとして会議を傍聴したが、会議の場で日本側がこの提案を通そうという意気込みはほとんど感じられなかった。WCPFC北小委員会は条約の規定上コンセンサス(全会一致)によらなければ合意を採択することができない(WCPFC条約第11条7項)ので、もとからこの提案は「無理筋」なものであり、日本の提案は増枠を求める国内漁業団体向けのポーズだったのだろう。