「大幅資源回復の見込み」でも山積するクロマグロ管理の課題、変わらぬ不正・隠ぺい体質でマグロが食卓からなくなる
「きちんと管理をすれば、魚は増える」という教訓を、クロマグロは示してくれたと言える。大西洋や地中海に棲息する「大西洋クロマグロ」や、南半球に棲息する「ミナミマグロ」も、全く同じ道、すなわち極めて危うい資源状態が判明したのち、厳しい管理措置が導入され、資源が回復の道に向かっている。サンマやサバなど他の漁業資源についても、クロマグロに倣って厳しい管理措置を導入して資源の維持・回復が図られるべきだろう。
実は問題が山積するクロマグロ管理
と、ここまでは良い話なのだが、残念ながら太平洋クロマグロ資源の管理については「決められた措置を守らせるための仕組み」が十分でないという大きな課題が残っている。そしてこの問題に対する取り組みは、甚だしく遅れている。 その一つが「漁獲証明制度(Catch Documentation Scheme: CDS)」と呼ばれるシステムである。これは、漁獲の段階から漁獲物の移動を記載した書類を政府や第三者機関が認証することで、その漁獲物がルールを守って漁獲されたものであることを確認する制度だ。 大西洋クロマグロの国際管理を担う「大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)」では08年から、ミナミマグロの国際管理を担う「みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)」では10年から導入されている。ICCATでは大西洋クロマグロ漁に関し、種々の漁法の中でも大型で最も漁獲量の多いまき網漁船には100%のオブザーバー乗船が義務付けられており、CCSBTでも漁獲量および漁獲努力量10%以上相当の科学オブザーバー監視が必要とされている。WCPFCでも、中緯度で操業する巻き網漁船全てにオブザーバー乗船が義務付けられているが、専ら高緯度地域で漁獲される太平洋クロマグロはこの枠組みの中にない。 それはなぜか。WCPFC海域のうち北緯20度以北の海域について中心的な役割を担っている北小委員会、そしてこの小委員会をほぼ常に自国で開催し議長職を独占してきた日本が作業を怠ってきたからである。 太平洋クロマグロに関しては13年のWCPFCで「各国は漁獲証明制度の策定を優先課題として取り組む」ことを義務付けた管理措置が採択されており、以降WCPFC北小委員会に作業部会が設置されて検討が行われてきた。ところが作業部会の議論は遅々として進まず、10年経った現在に至っても未だ完成していない。 確かに20年のコロナ禍によって20年から22年まで会議のオンライン開催を余儀なくされたことも遅れの理由であろうが、10年以上もかけなければ妥結しないような困難な議題とは思われない。増枠が合意された今回の北小委員会でもこの問題に関して話し合わせる作業部会は半日開催されたのみで、今年も完成に至らなかった。 WCPFC北小委員会が管理において中心的な役割を担っている太平洋クロマグロについては、何のオブザーバーによるモニタリング・プログラムも存在していない。漁業者からの報告がベースとなっており、第三者からの監視の目は届いていない。 監視・取締制度は、とりわけ個々の漁業者や団体に厳しい漁獲枠規制が課せられているクロマグロのような種には必要となってくる。というのも、漁獲枠よりも多く魚を捕り、それを報告しないでおく場合が考えられるからである。また、漁獲したものの、網を上げると魚価が低いやせた魚や小さな魚ばかりであったり、意図しない魚がかかってしまったりした場合、漁獲枠の消化を防ぐために、死んだ魚を洋上に投棄して捕らなかったことにしてしまう場合が考えられるからである。 実際、漁獲の過少申告はクロマグロの水揚げで全国的に知られる大間で事件として明るみとなっている。21年8月、大間からのクロマグロが安値で大量に流通しており漁獲未報告が疑われるとの通報が水産庁にあり、水産庁は青森県へ事実確認等を依頼、青森県は22年8月、21年度に55.7トンの未報告があったと調査結果を公表した。 しかし青森県の調査は極めて不十分なものであり、青森県警が23年2月に大間町水産会社2社の社長2人を漁業法(漁獲報告義務)違反の疑いで逮捕、この2人にマグロを売った漁師22人とともに起訴された。漁業者22人は罰金10万~20万円の略式命令を受け、社長2人も青森地裁で懲役4月執行猶予3年の有罪判決を受けている。