遺伝子を「シュレッダーで破壊」!?…ノーベル賞科学者・山中伸弥が語る、ゲノム解読の意外過ぎる「ウラ側」
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第9回 『「ヒトゲノムの8割は太古のウイルス」「遺伝子は想定の五分の一」…山中伸弥が解説するヒトゲノム計画で明らかになった「意外な事実」』より続く
遺伝子をシュレッダーに!?
羽生その配列を読み解いていくプロセスはどのようにするんですか。 山中そこが大変なんです。なぜ30億もある情報を一晩で読めるようになったかと言うと、30億字が記されている分厚い辞書みたいな感じですよね。それをまず“シュレッダー”にかけます。 羽生いきなり。 山中はい。シュレッダーにかけて、一個一個の切れ端は平均100文字くらいの断片にしてしまって、その100文字を瞬時に読みます。これで何千万の断片がほぼ同時に読めるので、30億塩基対が一応、一気に読めるようになったんです。
ゲノム解読の知られざる「ウラ側」
山中でも結局、それはシュレッダーで切った断片の配列が出てくるだけで、断片それぞれがもともとの長いDNAのどこの部分に当たるのか、つまりどういう順番に並び替えればよいのかわからない状態なので、それをつなぎ合わせる必要があるんですね。 どうやってつなぎ合わせるかと言うと、ヒトゲノム計画で解読した「国際ヒトゲノム参照配列」という全ゲノム配列のいわばテンプレートがあります。それぞれの100文字がテンプレートのどこに相当するか、それをコンピュータの力で貼り付けていくわけです。 データを出すまで、細胞やマウスを扱う実験は液体の試薬を使うので「ウエット実験」と呼びますが、ウエット実験は一晩で終わります。それを次に貼り付ける作業はコンピュータだけでやりますから、「ドライ実験」と呼びます。そこが腕の見せ所というか、コンピュータの力を借りながら結局、人間が貼り付けるわけです。僕も最後は自分の目で見て、これは多分ここだろうという感じでまだやっています。 羽生現在でも、そんな感じなんでしょうか。 山中今でもそうです。コンピュータだけにやらせると、いっぱい間違いを犯すので。コンピュータが犯した間違いを人間が見たら、「これは間違いだ」とすぐわかるところもあれば、わからないところもあります。だからウエットな部分は一晩で済むんですが、それを実際に意味のある配列に解読していく、つなぎ合わせる作業は、まだまだ発展途上にあるということです。