AI時代に必要なのは恐怖ではない。チャンスにするための視点とは? 前半(東福まりこ キャリアコンサルタント)
■テクノロジーの進歩で起こるのは失業率上昇ではなく労働者の移動
テクノロジーの進歩でロボットやコンピューターが人の仕事を奪い、街に失業者があふれる。そんな情景が浮かぶかもしれないが、テクノロジーの進歩は今に始まったことではない。 歴史を振り返れば、蒸気機関の発明で機械が取り入れられ職人の仕事に取って替わった。エンジンの発明で自動車の生産が始まり、馬車や人力車の仕事が消えた。 他方、部品・機械の製造・保守や、機械の管理をする人、製品の運送業、小売業、自動車ドライバーなどの仕事が生まれたり増えたりした。 また、農耕機械の発明で農作業に必要な人が減り、地方から都市への働き手の移動が起こった。 主要なエネルギー原料の変更でも労働者の移動は起こった。 2006年にヒットした映画「フラガール」は福島県のある炭鉱が舞台だ。昭和40年、エネルギー原料の需要が石炭から石油へ代わり、炭鉱の閉山が決まる。炭鉱で働いていた人たちは仕事を求めて次々と去るが、残った人たちで温泉を利用して「日本のハワイを作ろう」と新事業を立ち上げる。首都圏では有名な「スパリゾートハワイアンズ」の実話である。 長崎県にある通称「軍艦島」もかつて炭鉱で栄えた島で、ここで働いていた人々も、閉山後、場所を移り、新しい仕事に就いたはずだ。 日本で仕事がなくなれば、従業員は社内異動する。会社がなくなれば、他社へ転職する。工場の海外移転で工場が閉鎖されれば、製造業からサービス業へ違う業種へ移ることもある。 以下のグラフでは、戦後、第一次産業が減少し、製造業が増え、その後サービス業等へシフトしていっていることがわかる。 一時的であれ、個々に見れば失業は辛い経験であるが、人には汎用性のスキルがある。コミュニケーション力やITや資格など、新しい職場でもそれを使って仕事ができる。転職したからといって、前職でのメールやビジネスレターの書き方を忘れたり、Excel・Wordの操作方法をゼロから始めたりするわけではない。 テクノロジーの進歩で仕事を失った人は、短期的に失業状態におかれても、別途需要が生まれた仕事に就く。テクノロジーの進歩で起こることは、失業率の上昇ではなく労働力の移動だ。