AI時代に必要なのは恐怖ではない。チャンスにするための視点とは? 前半(東福まりこ キャリアコンサルタント)
■失業率の上昇は、「不景気」で起こる。
景気の指標であるGDP成長率と、日本では失業率よりもよく取り上げられる有効求人倍率のグラフ、日本は新卒一括採用をしているため、GDP成長率と新卒の就職率のグラフを見れば、景気と就職との関係が連動していることがわかる。
懸念であげたように、中長期的にテクノロジーの進歩が起因して不況になり、社会全体に失業が増加する可能性はある。が、テクノロジーの進歩イコール失業率上昇ではない。 テクノロジーの進歩でまず起こるのは働く人の移動だ。だから仕事を見つけるには需要のあるところへ行く必要がある。
■日本の独特な事情
ここで日本の労働者の状況について確認したい。失業についての心配を減らす要因が日本には3つある。 1つめは、少子高齢化による人手不足である。政府の定義している労働人口は15歳以上60歳以下であり、日本人の労働人口についてはほぼ15年後まで予想できる。画期的な移民政策をとらない限り、現在ゼロ歳の赤ちゃんの15年後の人口が減ることこそあれ後から増えることはないからだ。 すでに人手不足は始まっている。 例えば、タクシー運転手不足に対し、政府は個人タクシー運転手の年齢制限の上限の引き上げと営業エリアを過疎地にも拡大した。 また、国交省は、外国人への門戸を開くため、トラック・バス・タクシーの運転手を在留資格「特定技能」の対象に追加する検討にはいった。 福岡で、不足するバスの運転手に対応するため、自動運転の実証実験が始まっている。 ホテル業界も人手不足が深刻だ。コロナ禍が収束し、円安も相まって外国人観光客が戻ってきているなか、ホテル側はコロナ禍で客室稼働率が落ち込んでいる間に従業員が減ったため、客室清掃も間に合わない状態だ。 今年6月2日に開校した成田・ホスピタリティ・アカデミーでは、外国人技能実習生にホテルで働くための研修をして人手不足の需要に応えようとしている。
2つめは、日本は諸外国と比べて生産性が低いこと、すなわち生産性に伸びしろがあることだ。 日本生産性本部が発表した2021年の労働生産性の国際比較を見ると、日本の1時間あたりの労働生産性は49.9ドルで経済協力開発機構(OECD)加盟38か国中27位。比較可能な1970年以降、最も低い順位となった。 日本の労働生産性順位の低さについては「誤解がある」などと議論があるものの、「トップクラスのはず」といった主張は見あたらない。2021年は、経済成長率は上昇したものの、コロナ禍からの経済正常化に伴い労働時間が増えたことが生産性の下押しにつながったらしいが、同じデータでコロナ前の2018年・2019年も21位で、日本の生産性は低い。 10年毎の順位を見ても、日本は50年前の1970年からずっと20位前後で改善していない。 今後生産性を改善することで、企業の利益が増えて新しい事業に投資することもでき、景気が良くなれば雇用も増える。 3つめは、日本は雇用の流動性が低いことだ。日本人の職業観として、一つの会社で長く勤める、一つの職業を極める、このような一所懸命や職人的な働き方が理想とされることは令和になっても変わらない。 しかし筆者が子供の頃にはインターネットもスマートフォンもなかった。変化の加速がますます早まる時代に、多くの業種で一所懸命や職人的な働き方は時代にそぐわない。 2023年、政府の「骨太の方針」で最も力点が置かれたのが、労働市場改革だ。「リ・スキリングによる能力向上支援」、「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」、「成長分野への労働移動の円滑化」という「三位一体の労働市場改革」を行い、客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図ることにより、構造的に賃金が上昇する仕組みを作っていく、としている。 今後、リ・スキリングで人材のスキルが向上し成長分野への流動化がすすめば、賃金上昇にポジティブな影響があるだろう。 後半に続く。 東福まりこ キャリアコンサルタント
【プロフィール】
自身のアドバイスで友人が転職に成功したことをきっかけに、キャリアの見直しワークショップを開始。過去の転職経験や海外勤務経験をベースにアドバイスを提供中(国内大手1社・外資系2社、ドイツ赴任1年)。現在はマンツーマン形式でキャリア相談を行う。「転職」ではなく定期的な「転職活動」で市場価値を知るべき、が持論。飼いネコに構ってもらいながら働く日常を送る。