Google、サードパーティ Cookie 廃止を撤回:広告業界に混乱と期待
広告業界と規制当局の予測
メディアマネジメント企業のイービクイティ(Ebiquity)で最高戦略責任者を務めるルーベン・シュラーズ氏は、そのような冷淡な反応を言葉で表した。「一見興味深い話ではあるが、Web閲覧体験全体ですべてのサードパーティトラッカーに適用される単一の広範な同意の選択肢を消費者に与えるという考え方は、具体的なインフォームドコンセント(情報に基づく同意)に関する現行の規制や定義にまったく準拠していない」。 また、規制当局からの承認が必要になることを考えても、この計画は「まずありえない話」だ。Googleが英国の競争・市場庁(CMA)と進めている取り組みが示しているように、容易なことではない。 しかも、たとえ合意に達したとしても、サードパーティCookieによる追跡を許可するかどうかの選択肢をユーザーに与える場合は、オプトイン(事前に同意を求める)方式にする必要があるとシュラーズ氏は指摘する。そうなれば、サードパーティCookieの利用は大幅に減少するだろう。2021年にAppleが同様の措置を講じたときのようにだ。 「結局、Googleはこれまでと異なる道を進むことに決めた。つまり、オプトアウト(事前に同意を求めない)方式をユーザーに強制するのではなく、ユーザーの同意を求めることにしたのだ。ユーザーの選択とプライバシーを強く支持する者として、私はこのアプローチを歓迎する」と、マーケティング会社のイプシロン(Epsilon)で最高分析責任者を務めるロック・ローズ氏は述べている。 このアプローチがどう転ぶにせよ、サードパーティCookieが警告を受けているのは明らかだ。そう遠くない将来、サードパーティCookieが広く利用されなくなる日が来るだろう。今回の出来事はその前兆だ。そのような未来に賭けていた人は、Googleの決定にかかわらず、賭けが無駄ではなかったと安心していいだろう。 「この分野でのイノベーションや取り組みは、我々に損害をもたらすものではない」と、スノープス(Snopes)とTVトロープス(TV Tropes)の最高収益責任者であるジャスティン・ウォール氏はいう。「我々は今後も、Cookieを有効にしているユーザーから恩恵を得られるはずだ。(中略)同時に、(SafariやFirefoxなど)Cookie非推奨のブラウザほど(Cookieの利用)低下に見舞われることもないだろう」。 この見解に基づけば、パブリッシャーは安心できるはずだ。Cookieを使用しない代替品のテストと実装に時間をかけたパブリッシャーは、依然として長期的に恩恵を得られる立場にある。 テクノロジー企業メディアオーシャン(Mediaocean)のプレジデント、グラント・パーカー氏も同じような考えだ。 「Cookieのない未来に備えるために行われた多くの優れた取り組みは、オムニチャネル広告に引き継がれることになるだろう」と、パーカー氏はいう。「ソーシャルメディアやCTVといったCookieレスチャネルの登場により、広告主はIDとシグナルが複数ある環境での取り組みにすでに適応しはじめている。Googleの計画変更によって、この基本的な事実が変わることはないだろう」。 もっとも、未来がより明確になるまでは、多くの関心が過去に向けられるはずだ。期限の設定と延長が永遠に繰り返されるように感じられたこの4年間を経て、なぜこのような結論に達したのか、議論が渦巻くことになるだろう。 特にこの数カ月間は、Googleの幹部からさえ、Cookieの将来に確信が持てないような発言が出はじめていた。一部の広告幹部にとって、Googleの担当者が将来に確信を持てなくなってきていることは明らかだった。 広告幹部のなかには、サンドボックスが機能しない可能性について率直に話すだけでなく、Googleが現在提案しているものと非常によく似た機能を検討している者さえいた。 そして突然、憶測がより大きな意味を持ち始めた。幹部らは、もっと早くこの事態を予見すべきだったのかもしれない。アドストラ(Adstra)で最高プライバシー責任者を務めるジェイソン・ビア氏のようにだ。同氏は2月の時点で、業界情報メディア「アドエクスチェンジャー(AdExchanger)」に寄稿した記事で、GoogleがChromeでサードパーティCookieを廃止することはないと予測し、その理由として、規制当局や議員、広告業界全体からの圧力が高まっていることを挙げていた。 このような幹部が言わんとすることは簡単だ。サードパーティアドレサビリティをブラウザから排除するというGoogleの計画は、プライバシー擁護派をなだめることと広告パフォーマンス(および収益)を維持することのあいだで行き詰まった。アドレサビリティという止められない力が、動かせない物にぶつかったようなものだ。結局のところ、ほかの差し迫った問題に費やすべき時間と資金を無駄にした空騒ぎだったというわけだ。 「今回の一件は、Chromeの新しいプライバシーロードマップが存在することを示すものではないが、この大胆な動きには勇気づけられる」と、アドテクベンダーのイールドモ(Yieldmo)で製品管理担当バイスプレジデントを務めるマーク・マクイクラン氏はいう。「少なくとも、業界が未知のものを懸念することなく、どのように適応し、前進できるのかについて、待ち望まれていた確実性が得られたも同然なのだから」。 [原文:Ad world is relieved but skeptical about Google’s decision to keep cookies in Chrome] Seb Joseph and Kayleigh Barber(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:坂本凪沙)
編集部