日本有事に安保で米軍は動くのか 法哲学者や元自衛隊幹部が語る懸念
山下裕貴・千葉科学大学客員教授、元陸上自衛隊・陸将
「日本が有事となるシナリオはいくつかあります。例えば沖縄の尖閣諸島に中国軍が上陸し、自衛隊が中国軍と衝突するというケースです。偽装した民兵が尖閣に上陸して発砲してきた。海上保安庁・警察が対応するなかで、中国側は武装した海警局、さらに軍が出てくる。そうなると、日本も海上自衛隊が出ざるをえず、全面衝突になる──。問題はこうしたケースで日米安保が発動されるかどうかですが、結論から言えば難しいでしょう。アメリカの国内世論や連邦議会で『無人のちっぽけな島のためにアメリカの若者の血を流すのか。核保有国と戦争するのか』という意見が出る中、政府がそれを押し切って軍を派遣するとは思えません」
「では、日本の北はどうか。いまはロシアが北海道に攻めてくるような状況ではありませんが、将来的にどうなるかわかりません。たとえば米露の緊張度が高まったとき、ロシアがオホーツク海を要塞化するために、北海道に限定侵攻してくる可能性はあります」 陸上自衛隊で中部方面総監などの要職を務めた元陸将の山下裕貴氏も、実際の有事を想定すると「日米安保があれば大丈夫という状況ではない」と語る。
北海道では米軍が来るまで厳しい戦い
「かつてロシアがソ連だったころの米ソ冷戦時代は、ソ連の地上軍が稚内から侵攻してくることが想定されました。サハリンから稚内の宗谷岬までは42キロという近さです。稚内や天塩に上がり、国道40号で旭川を目指す。地上軍はもう一つ、北方領土の国後島から侵攻することも考えられていました。国後から根室海峡までは17キロ。標津や斜里に上陸し、帯広に向かってくる。どちらもロシアの最終目標は札幌です」
「このときロシア軍は大隊戦術群という作戦運用単位で侵攻してくるでしょう。いまウクライナにも使用しています。1個大隊戦術群は600~800人規模。1個戦車中隊、3個機械化歩兵中隊、砲兵中隊などを組み合わせて編成する。ロシア軍の作戦基本部隊は大隊戦術群2個基幹の旅団(1500人規模)です。ロシア軍は大隊戦術群を170個も持っていると言われています」 「では、こうしてロシア軍が攻め込んできたとき、日米安保は発動されるのか。北海道がここまでの状況になれば、発動されないということはないでしょう。しかし、いつの段階で発動されるのかはわかりません。あくまでアメリカの意思決定だからです。また、発動しても手続きと準備があるので、すぐには来られない。つまり、米軍が来るまでの間、自衛隊が戦い、可能な限りの防衛をしていくことになる。重要なのは領土に侵攻してくるときは、地上戦になるということです。戦争とは基本的に相手の領土を獲得することです。ミサイルを撃ちこんだからといって領土を支配できるわけではないのです」