税務署が突然あなたの家にやってくる…。知らないでは済まされない相続の「怖さ」
名義預金の存在は要注意
当事者に、財産を隠す(つまりは脱税)意図はなくても、申告書に書き漏らしたばかりに、後で大変な目に遭うリスクはある。 その1つが「名義預金」。 これは、口座名義人がお金を出していない預金のこと。亡くなった人が、配偶者や子供の名義の預金口座をつくっていて、自分のお金をそこに預けて管理していた場合が、それにあたる。 税務署は、相続税が発生する可能性があると判断したら、亡くなった人の自宅近辺の全銀行に、本人・家族の預金口座と預金額について問い合わせをする。名義預金は、しっかり把握されると思っていい。なので、この額も相続財産として、正直に申告書に盛り込むのが賢明だ。 ただ、名義預金といっても、それなりの理由があって存在したものであれば、ペナルティは生じない。 天野さんは、担当した相談者の例を挙げる。亡くなった夫は以前、複数回にわたって自分の口座から100万円を引き出し、妻の口座に同日振り込んだ。これが税務署に、名義預金ではないかと指摘されたのである。 これに対し、妻と天野さんは「夫から妻に渡された生活費である」と主張。また、税務署には、「これが生活費ではなく、明らかな名義預金だという証明をしてください」と言った。 税務署はその証明はできず、こちらの言い分が通った。それで、約100万円の相続税の減額が適法にできたという。
一次相続の際はここに注意
天野さんは、税務署はいちいち教えてはくれない、相続の「極意」についても1章を設けている。 それには、遺言書や暦年贈与といったテクニカルな解説もあるが、マインド面の話もあって興味深い。 その1つが、一次相続の遺産配分の扱い。前述したように、一次相続時の法定相続分は配偶者が5割、子供が5割となっている。これを、3:7と子供に多めに配分すると、 二次相続時を含めての相続税をトータルで節税できることが多い。このやり方をすすめる税理士も結構いるという。 しかしこれは、「配偶者の気分を害することが多い」と、天野さんは指摘。次のように説明を加えている。 <なぜかというと、自分を差し置いて子供が多く取るというのは内心面白くないからです。とはいえ、口では「私も長くないから子供が多く取っていいですよ」と言いはするのです。 でもそこで子供がその気になって、「そう? じゃあそうさせてもらおうかな」なんて言うと確実に気分を悪くします。(本書152~153pより)> それで、母親が父親の財産をすべて寄付してしまった例もあるという。 そんなふうにこじれないための解決策として、子供から「お母さん全部相続したら」と言うことを、天野さんはすすめる。そう言われると、親としては「あなたはこのくらい取っておいた方がいいわよ」と返したくなるもの。仮にそのような展開にならなくても、二次相続の際、結局は子供のところに遺産は渡ってくる。一次相続では、残された親を思いやる気持ちを優先するほうがずっといい。 これに限らず相続の極意は、とにかく「モメない」ことだという。親の側としても、残す財産が少なくなりそうな子供に対して、心情面で配慮するなどやっておくべきことはある。相続が「争族」になってしまわないためにも、押さえておくべき点はしっかり押さえておくことが肝心だ。 【今日の定年後の暮らしに役立つ1冊】 『相続は怖い』 天野隆、税理士法人レガシィ著 定価990円 SBクリエイティブ 文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagramに掲載している。
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