石破政権の「14兆円」大型補正予算を経済のプロが「採点」 日本が“失われた30年”に陥っている本当の理由とは
質・量ともに物足りない
石破政権にとって初めての予算編成となる今年度の補正予算案が9日、国会に提出された。総額13.9兆円と昨年を上回る形となった今回の予算は閉塞感高まる日本経済を救う処方箋になり得るのか。第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏に訊いた。 【写真を見る】213坪の豪邸! 石破首相の大邸宅
「昨年度の補正予算は13.2兆円でしたから、今年はそれを0.7兆円上回る結果となりました。昨年よりも金額的に下回ることになれば景気が底割れする可能性があったとはいえ、今年の経済成長率はマイナスに陥る危険性もあり、昨年の補正予算がどこまで効果的だったのかは疑問が残るところです。 今年度の補正予算の内訳を見ると、短期的なGDP押し上げ効果という意味で、質・量ともに物足りない印象を受けます。 半導体とAI支援で1兆5000億円を計上していますが、これは2030年までに10兆円を同分野に支援することの一環でしかありません。また、ガソリン補助金は続けるものの、段階的に縮小していくことになります。冬場のエネルギーを消費する時期に補助金を縮小することへの懸念も感じます」 補正予算では昨年に続き、住民税非課税世帯への給付金が実施される予定だ。 「しかし、住民税非課税世帯の4分の3以上が高齢者で、所得は少なくとも資産をため込んでいる世帯もあります。本当に生活が苦しい人にお金が渡るのか疑問です。 こうした補助金や給付金による一時的な負担軽減よりも、恒久的な減税でないとGDPを押し上げる効果は薄いと学術的にも実証されています。本当に理に適う政策は食料品の軽減税率をさらに軽減するとか、東京都などがよく実施しているQRコード決裁によるポイント還元などといった支出した人が恩恵を受ける政策でしょう。国民民主党が主張している基礎控除等の引き上げやガソリン暫定税率の廃止も恒久減税という意味では有効で、それらの政策の方が経済的には効果が期待できます」
自公政権は緊縮財政的な傾向が強い
石破政権の看板政策「地方創生」はどう見るか。 「先の通常国会で産業競争力強化法が改正されて、中堅企業の定義を明確にして、国が中堅企業を支援することになりました。地方経済を担うのは大企業よりも中堅企業の方が多くなります。地方創生を考える上では良い政策だと思うのですが、これは石破政権が誕生する前からの政策です。石破政権独自の政策というと来年度、地方創生推進交付金を倍増するとしています。しかも、金額的に見れば、年間約1000億円の予算が2000億円になるというだけで、石破首相が掲げる地方創生策は具体性に欠けているように思えます」 それゆえ、今回の補正予算案も厳しく“採点”する。 「今回の補正予算は石破政権の政策を総動員しているようには見えません。そもそも、自公政権は世界標準対比で財政規律を重く見すぎている傾向があります。日本は何か新しい政策をやるのであれば、財源もその年にセットで考えるという単年度中立主義が基本となってきましたが、世界標準で見ると財政運営の肝はプライマリーバランスの黒字化や政府の借金を減らすこと自体にあるのではなく、政府債務残高の対GDP比率を上げないようにしながら経済を成長させていくことです。 一方で、緊縮財政的な考えに囚われていては、いくら補正予算を組んでも思い切った政策はできません。なぜ日本で補正予算を毎年組むかというと、本予算では前向きな予算を計上しにくいからです。それゆえ、補正予算で半導体支援などの大規模・長期・計画的な予算を計上するしかありません。その構造が変わっていかないと、なかなか国際競争力を高めていくことができないでしょう。だから、“失われた30年”に陥ってしまっているのでしょう」