元共同通信ソウル特派員・青木理氏が語る「韓国戒厳令」もう一つの危険 「自民党の緊急事態条項と相似形」
■「非常時」を理由に為政者へ権力を集中させる危険 だが、これらの主張に対して青木氏はこう批判する。 「韓国のようなことが起こるから緊急事態条項を創設しろ、というのは話の順序が全く逆でしょう。自民党がかつて作成した改憲草案に記された緊急事態条項は、まさに韓国憲法が定めている戒厳条項と完全に相似形です。あまりに乱雑な自民党改憲草案の通りに緊急事態条項が作られることはないにしても、この感覚で憲法改正を進めたら、近いものになる可能性もある。そうなれば、まさに錯乱状態になった為政者が簡単に“緊急事態”を宣言できるようになってしまいかねません。今回の韓国の混乱を見て『日本にも緊急事態条項が必要だ』などと主張している人びとは、どうかしているとしか言いようがない」 そして、こう続ける。 「大統領制の韓国では現在野党が国会の多数派を占め、メディアも市民も猛抗議したので歯止めが機能しましたが、たとえば『一強』政権下の日本だったらどうか。果たして国会が為政者の暴走を敢然と制御できたか。メディアが一斉に批判し、市民が国会に押しかけてきちんと声を上げられたか。そうあってほしいと思いますが、むしろ今回の韓国の出来事からくみ取るべきは、『非常時』『緊急時』を理由に為政者へ権力を集中させることの危険性であり、仮にそうなっても政治やメディア、市民社会があらがう民主主義の根源的な強さの重要性でしょう。安易な改憲論議に結びつけるのは本末転倒です」 隣国が混乱しているからこそ、そこに乗じるのではなく、冷静な議論をする必要がある。 (AERA dot.編集部・上田耕司)
上田耕司