特集|ハースF1率いる小松礼雄、前任シュタイナーにできなかった“投資”を引き出せた理由とは?
チーム改革は会話から始まる?
夏の到来と共に陽気がハースを包む今、チーム代表としての最初の半年を過ごした小松代表の、期待以上の結果を残すための謙虚さがいかに光り輝いたかを振り返ることができる。 小松代表に話を聞くことができたのはイギリス・シルバーストン。ベアマンがハースから2025年にF1フル参戦を果たすことが発表された直後で、エステバン・オコンが来季ハースでドライブするという発表も間近に迫っていた。ヒュルケンベルグが来季からザウバー/アウディに移籍することはハースにとって痛手だったとはいえ、ドライバー変更はチームが過渡期にあることを明白に示している。 インタビューの中で小松代表は、自身がハースをどう変えていったのかを語った。チーム改革は、オーナーに単刀直入に語ることから始まった。 「我々は『OK、ジーンは表彰台獲得を望んでいる。表彰台が獲れることを願おう』とは言えません」 小松代表はそう語った。 「そうではなくて、『どうやってたどり着くか』と計画しなければいけません」 「一朝一夕にはたどり着けません。2年以内に行くこともできません。戦略を立てる必要があります。それはチーム内コミュニケーションにも通じます」 「たとえ7~10年のことであっても、いつまでに何を達成したいのかを明確にしておけば、『我々が目指すのはここだ』ということをみんなが理解していれば、多少の不備や理想的でないことも我慢できます。我々が立ち止まっている訳にはいかないことを、誰もが知っていますからね」 「時間を無駄にしないためにも、こうしなければいけませんよね? 繰り返しになりますが、ビジョンとコミュニケーションに繋がることです」
小松代表の働きかけと、それに応えたハース
小松代表は1月のミーティングで、少なくともこの最後の部分は明らかにしていた。しかし短期的な計画から中期的、長期的なプランまで、ビジョンを実現するための重要な部分については、説明しなかった。 その部分に含まれているのが、ハース・オートメーションのCEOであり、38年間ジーン・ハースの右腕として働いてきたボブ・マレーを、小松は代表に就任してすぐにバンブリーの本拠地に招き、その後も定期的にレースへ呼んだことだ。 こうした働きかけが2024年の小松代表とハースの両者にとってどれほど役立ったか、という質問に対して、小松代表はまず「非常に大きいです」と答え、シュタイナー前代表の時代に上手くいかなかった原因について説明した。 「私の戦略は、ボブやジーンといった人物を味方につけることでした」と小松代表はそう語った。 「彼らを巻き込んで、F1で成功するためには何が必要なのかを理解してもらうんです」 「以前の戦略は逆だったかもしれません。しかし、私の戦略は初日からこうです。もしオーナーが現実を理解していなければ、到達不可能な結果を想像するだろうから、当然イライラするはずです」 「しかし彼の期待に応えるためには、F1で成功するために必要なことをもっと理解してもらう必要がありました。ボブはそのための重要な役割を担っています。それは素晴らしいことですし、私が本当に嬉しく思っているのは、彼が私と契約した時にその約束もしてくれたということです」 「彼は『アヤオ、私は君をサポートする。君と働くよ』と言ってくれました」 「彼が来る度に、我々が何をしようとしているのか、どんなことに直面しているのかを理解してくれます。(ダブル入賞を果たした)オーストリアには、ジーンとボブが一緒に来てくれました」 「素晴らしいことでした。ジーンとボブ側から、我々の親会社のコミットメントが示されました。ボブは100%、行動でそれを裏付けています。本当に感謝しています」 前年のVF-23に比べ、レーススティントでの予測可能性が向上した今年のVF-24と、ロングランでのテストで研究されたセットアップ、そしてデグラデーションを考慮したドライバーの走りによって、チームはジーン・ハースとマレーに対して具体的な“小さな1歩”を示すことができた。