奥入瀬の森に千年続く秘湯 足元からプクプク「源泉湧き流し」温泉の一軒宿 「蔦温泉 蔦温泉旅館」 【コラム:おんせん! オンセン! 温泉!】
今年も居座り続けた残暑が、やっと終わりを迎えましたね。早朝や夕暮れどきには、秋らしい心地よい風を感じるようになりました。日が落ちる時間も早くなり、秋の夜長のスタートですね。 長い暑さで蓄積された心身の疲労を癒やすには、温泉がぴったりです。観光地や温泉街を巡るようなにぎやかな温泉旅行も楽しいですが、こんな時は、静かな宿で温泉に入ったり、自然を眺めたり、昼寝をしたりしながら、ゆったり過ごすのもいいですよね。 今回は、そんなのんびり過ごすのにおすすめの温泉、青森県の「蔦(つた)温泉 蔦温泉旅館」をご紹介します。 蔦温泉が湧くのは、青森県十和田市の森の中。観光名所である奥入瀬渓流の入り口に位置しています。約1000年の歴史を持ち、文献では1147年に、すでに湯小屋があったと記録されているのだそうです。 緑の深い林道を走った先、急に開かれたエリアに現れる一軒宿の「蔦温泉旅館」。風情ある素朴かつ重厚な木造の本館は、1918年建築の歴史ある建物です。いかにも山奥の秘湯の雰囲気が漂い、その雰囲気の通り携帯の電波は圏外でした(宿のWi―Fiあり)。 文人の大町桂月(おおまち・けいげつ)や、プロレスラーのアントニオ猪木ゆかりの温泉で、旅館の敷地内にはお二人のお墓があり、お参りすることもできます。 お風呂は、時間帯で男女入れ替えの「久安(きゅうあん)の湯」、男女別「泉響(せんきょう)の湯」、予約制の「貸切風呂」の3カ所が、館内に点在しています。どの浴室も、趣のある木材が全面に張り巡らされた内湯。芳ばしい木の香りに包みこまれながら、じっくりとお湯に集中する湯浴みを堪能することができます。 そんな蔦温泉のお風呂で一番のハイライトといえるのが、「久安の湯」。木目のはっきりした「ブナの木」を使用した湯小屋は、昔ながらの素朴な湯治場を想わせる風情です。20人ほどが入れそうな真四角の大きな湯船には、底から源泉がプクプクと出てくる「足元湧出泉」。開湯以前から湧き続ける温泉を、ダイレクトに味わえる、貴重なお風呂です。 数本ある源泉はすべて自家源泉で、泉質はナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物泉など。無色透明なお湯は、たっぷりなミネラルを感じる独特の甘い香りが漂い、舐(な)めてみるとほんのり甘いダシのような味がします。生まれたての温泉は、少し熱めで元気いっぱい。湯に入る瞬間は少しピリッとした強さがありますが、身を沈めると湯に包まれるようになじんでくる極上の感覚です。湯上りは、心身が癒やされているとともに、小さい子供と遊んだ後のような元気な気持ちにもなれる、生き返りの湯でした。 蔦温泉の魅力は食事にもあります。地元産の新鮮な食材をふんだんに使用したごはんは絶品です。 この日の夕食は、小川原湖(青森県)産ワカサギの天ぷら、青い森紅サーモン・ホタテ・ヒラメのお造り、十和田産イワナの姿焼き、倉石牛三種(ヒレ・サーロイン・ランプ)食べ比べ、などのラインアップ。海に山に青森のおいしいものをこれでもかと食べさせてくれて、心までいっぱいになる食事でした。特に、イワナの姿焼きはふっくら肉厚で、噛(か)むとフワフワな食感の中においしい脂がジュワっと出てきて、一瞬で頬張りました。 暑さが落ち着き、夜が長くなるこの季節。遠くの一軒宿で、日々の喧騒から離れた非日常を味わう休日はいかがでしょうか。蔦温泉は、周辺に散策路もあり、ブナの森を歩いた先に「蔦沼」などの絶景スポットもあります。これからの季節は、紅葉や雪景色も楽しめそうですね。 温泉に何度も入り思索にふけるもよし、部屋でゆったり読書をして過ごすもよし、森の中を散策するもよし。そんな思い思いの時間を過ごすことで、蓄積された心身の疲れが、きっと癒やされることでしょう。 【蔦温泉 蔦温泉旅館】 住所 青森県十和田市奥瀬字蔦野湯1 電話番号 0176-74-2311 【泉質】 ナトリウム―硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物泉(低張性 中性 高温泉)など/泉温47.3度など/pH:不明/湧出状況:自然湧出など/湧出量:不明/加水:なし、あり/加温:なし/循環:なし/消毒:なし ◆掛け流し 【筆者略歴】 小松 歩(こまつ あゆむ) 東京生まれ。温泉ソムリエ(マスター★)、温泉入浴指導員、温泉観光実践士。交通事故の後遺症のリハビリで湯治を体験し、温泉に目覚める(知床での車中、ヒグマに衝突し頚椎骨折)。現在、総入湯数は2,500以上。好きな温泉は草津温泉、古遠部温泉(青森県)。