日本製鉄とUSスチールが米政府など提訴 「政治目的で不適切な影響力行使」と
日本製鉄とUSスチールは6日、日本製鉄によるUSスチールの買収計画を阻止したとしてアメリカ政府を提訴した。ジョー・バイデン大統領が「労働組合の支持を得るために法治主義を無視した」と主張している。 両社はまた、大統領任期の最終週に入ったバイデン氏が、自身の政治的目的を推進するために日本製鉄によるUSスチールの買収を阻止したと非難している。 バイデン大統領は3日、提案された計画を拒否した際、国内所有の強力な鉄鋼業は国家安全保障と自動車や防衛産業を含む強靭なサプライチェーンにとって不可欠だと説明していた。 149億ドル(約2兆3600億円)の買収が実現すれば、日本製鉄にとって中国との競争力が強化されることになる。中国は世界の鉄鋼の60%を生産している。 ホワイトハウスはこの決定を擁護し、USスチールの外国所有が国家安全保障上のリスクをもたらすと主張している。 この買収計画は2023年12月に発表されて以来、宙に浮いた状態が続いている。 バイデン大統領は取引阻止を決定したことで、昨年の大統領選の政治的公約を果たした形になる。USスチールは激戦州ペンシルヴェニア州が拠点。しかし、この決定が外国投資を冷え込ませ、重要な同盟国の日本との関係を混乱させる可能性があるとの懸念もある。 日本製鉄とUSスチールは、「バイデン大統領が政治的な目的で不適切な影響力を行使したことにより、CFIUSは国家安全保障に焦点を当てた誠実な審査を実施しなかった」と主張している。 両社は、米国企業の外国買収を審査する権限を持つ対米外国投資委員会(CFIUS)がバイデン氏の立場を支持するように「操作された」として、新たな審査を命じるよう裁判所に求めた。 両社はさらに、「買収計画を阻止するために」違法行為で共謀したとして、全米鉄鋼労働組合のデイヴィッド・マコール会長と、米競合クリーヴランド・クリフスのローレンソ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)をペンシルヴェニア州で訴えた。 マコール会長は、2023年夏に発表されたクリーヴランド・クリフスによるUSスチールの買収案を支持していた。同会長は日本製鉄とUSスチールによる非難は「根拠のないもの」だとし、バイデン大統領の決定を支持すると繰り返した。 日本製鉄とUSスチールは、取引が「米国の国家安全保障を脅かすものではなく、むしろ強化するものである」ことや、中国鉄鋼業の脅威への対抗に向けた米国鉄鋼業の強化をもたらす」ことを示すために、すべての関係者と誠実に協力してきたと述べている。 また、日本製鉄がUSスチールに27億ドルを投資する準備があることを、あらためて強調した。 日本の石破茂首相は6日の年頭記者会見で、「日本の産業界から今後の日米間の投資について懸念の声が上がっていることは、残念ながら事実だ。我々としても重く受け止めざるを得ず、懸念の払拭(ふっしょく)に向けた対応をアメリカ政府に強く求めたい」と述べた。 石破首相はまた、個別企業について政府が述べることは不適切だとしながらも、「なぜ国家安全保障上の懸念があるかについては、きちんと述べてもらわなければこれから先の話にならない。いかに同盟国であろうと、これから先の関係においてこうした点は非常に重要だ」とした。 アメリカ政府は1990年以降、外国企業による買収を8件しか阻止していない。そのほとんどは過去10年間のもので、中国企業が関与していた。 今回の訴訟により、買収計画の行方はドナルド・トランプ次期政権に委ねられる可能性があり、一部の専門家は、より有利な再審査が行われるかもしれないとみている。 しかし、トランプ次期大統領も、この買収を阻止すると述べている。次期大統領は6日、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、「関税によってUSスチールはより収益性が高く価値のある企業になるのに、なぜ今売りたいのか?」と書き込んだ。 次期大統領は、アメリカへの輸入品をより高価にする包括的な関税を導入する計画を示している。次期大統領は、こうした措置によって国内企業が外国企業と競争しやすくなり、製造業のブームを引き起こし、鉄鋼の需要を増加させると述べている。 経済分析によると、トランプ氏が前任期の2018年に発表した外国製鉄鋼への関税は、鉄鋼メーカーでの雇用増加をもたらしたものの、より高い鉄鋼コストに対処しなければならなかった他の製造業では雇用減少を招いた。 (英語記事 Nippon and US Steel sue government over blocked deal)
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