ヤクルト小川監督が阪神・岩田の青木への頭部死球に激怒の執念ドロー「しょうがないでは済まされない」
流れは完全にヤクルトだった。だが延長12回に手痛いミスが出る。11回から続けてマウンドに上がった近藤が、大山の投手ゴロを弾き、その事後処理にも焦って一塁へ悪送球。バントで得点圏に送られた場面でベンチは、もう1点もやらまいと、梅野を申告敬遠で歩かせたのだ。これが裏目。代打の中谷に左中間に2点タイムリー二塁打を浴びてしまう。万事休す……。だが、ヤクルトは死んではいなかった。 その裏。4番手の島本から先頭の山田がレフトポールを直撃する7号ソロで1点差。二死を取られたが、ここで、また事件が起きる。村上が右肩に死球をぶつけられたのだ。 小川監督はベンチを出て審判に猛抗議した。 「警告試合。退場じゃないか」 警告試合が宣言された試合での意図的なボールは即退場処分となる。 だが、審判は「狙って当てたわけじゃないから」と、その抗議を受け付けなかった。 小川監督は、試合後、この第二章となった死球渦にも怒りが収まらなかった。 「1点差。きょうの風に、この球場。村上には一発があることを考えると、死球でもいいじゃないか、という考えがあるんじゃないか。狙っていなかったとは言えない」 指揮官の怒りがベンチに残っていた最後の代打・中村に乗り移った。 カウント2-2からバッテリーの無警戒を読んで村上が二盗を決めたことで、途中からライトを守る江越が守備位置を前にした。これが勝負の綾となる。中村の打球はライトの頭上へ。懸命に背走した江越は、前進守備を敷いていた分だけ届かない。二塁ベース上で選手会長の中村が両手を小刻みに震わせてガッツポーズ。なお二死二塁でヤクルトベンチは足に不安のある中村に代えて24人目となる投手の風張を代走に送った。まさに総力戦。執念のサヨナラチャンスに西田はライトフライに倒れたがスタンドからの拍手は止まなかった。執念、そして怒りのドロー劇である。 「よく追いついたね。価値ある引き分けだよ」 激怒の小川監督も結果には満足していた。 相次ぐ死球劇が火をつけたのか?と問われ「そうじゃないですか」と否定しなかった。 一方、ベンチワークに経験不足を見せたの阪神の矢野監督は、「追いつかれたということは、もちろん俺の責任。2点を取って勝てるという思いもあったけど、野球の流れ的にもよくあること。5点差を追いつかれた責任は俺にあるけど。負けなかったということにもすごく意味がある」と渋い顔だった。 誤算に次ぐ誤算。それは阪神にもヤクルトにも。裏と表をぐるぐるしながら勝利の女神は、どちらにも微笑まなかった。12連戦を阪神は8勝3敗1分け、ヤクルトは6勝5敗1分けで終え、2位のヤクルトと3位阪神のゲーム差は「1」。代打陣の顔ぶれを見ると、得点力不足を叫ばれる阪神の方にまだ迫力があった。バレンティン、坂口らを登録抹消で欠くヤクルトは、選手層の薄さを露呈させたが、小川監督は「明後日から切り替えていきたい」と言う。今後に遺恨を残すことになった両チームの争いは、セ・リーグのペナントレースの行方を左右するものになってくるのかもしれない。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)