マリリン・モンローとニコンのお熱い関係 「カメラ横取り説」を考える
ニコンで撮られたものではない可能性?
今回、ネット上などでは、カメラ上面にあるフィルムを巻き戻すためのクランクが立ち上がった状態(通常は格納されている)であることも話題になっているが、なぜなのか本当のところはわからないものの、ある程度の推測はできる。 3日間に渡り2500枚を超える大掛かりな撮影だったことから、現場には複数のカメラが持ち込まれていたことは確実と思われる。そして、写真には確かにニコンFを手にしたモンローが写っているわけだが、この写真自体はニコンではないカメラで撮られた可能性が高い。当時のコンタクトプリントが残っているのだが、それを見るとどうやらスクエアフォーマット(正方形画面)のカメラが使用されているようなのだ。ファッション誌のグラビア撮影で定番だったローライフレックスやハッセルブラッドといったスクエアフォーマットの中判カメラで撮影されたのだろうが、若き日のスターンがハッセルを構える写真が残っていることから、ハッセルの可能性が高いのではないか。 となると、「モンローはバートの愛機であるニコンのカメラを横取りし」というシチュエーションは、ニコン愛用者であったスターンが肌身離さず持ち歩き、その日もハッセルともども撮影に使うため現場に持ってきていたFをモンローが何気なく手にとったことから、「いいね、それで行こう!」となったのかもしれない。あるいは、最初からFを撮影だけではなくアイテムとしても使うつもりで準備していたことも考えられる。他に撮影されたカットの中には、ベッドに横たわるモンローの傍らでニコンFを構えたスターンが、鏡を利用して2ショットの自画撮りをしているカットがある。
なぜ、Fのクランクは立っているのか
それにしてもなぜ、Fのクランクは立っているのだろうか。 フィルムの時代は特別な装置を使わない限り、36枚撮ったらフィルムを交換しなければならなかった。複数台のカメラを使えば、撮り終えた後のフィルム交換をスタッフに任せて、写真家はすぐさま次のカメラで撮影を続行。リズムを崩さずに済む。とくにFの場合、フィルム交換するには裏蓋をスライドしてボディからいったん完全に取り外さねばならず、裏蓋が蝶番で開閉できる機種と比べ、フィルム交換に時間がかかるのがウィークポイントでもあった。複数台のカメラを取り替えながら撮影する場合、撮影後にフィルムを巻き戻し終えた個体であることがわかるようにクランクを立てた状態で置いていた可能性もある。それをモンローが何気なく手に取ってポーズをとったという可能性だ。 また、スターンがそういうスタイルだったかどうかはわからないが、フィルムが入っていることが一目でわかるようにわざとクランクを立てたままの状態で撮影する写真家もいたようなので、「ニコンのカメラを横取りし」という説明からすると、まさにスターンが構えていたカメラをモンローが横取りしてポーズをとったという可能性も0ではない。 あるいは、単にクランクを立てておいたほうが目立つから、といった思った以上に単純なノリでポーズがつけられた可能性も考えられなくはない。当時のニコンの特徴でもあったレンズの連動爪が、カタログ写真などでは通常F5.6、真上にくる位置にセットされるのだが、モンローの写真の場合は傾いた状態になっており、カメラ正面の「Nikon」の銘版が目立つように工夫しているかに見えなくもない。 ああだこうだと考え始めるとキリがないが、いろいろ考えをめぐらせたくなる魅力的な一枚なのは間違いない。 (文・写真:志和浩司)