数十年に1度の「竹の一斉開花」は、大規模な飢饉を引き起こす
竹の一斉開花がもたらす人的被害
■竹の一斉開花がもたらす人的被害 歴史的記録や現地の言い伝えは、珍しい竹の開花がもたらす破滅的結果を物語る。何世代も前からこの現象を耐え忍んできたインド北東部のミゾ族には、こんな言い回しがある。「竹の花が咲いたら、死と荒廃がやってくる」 インド北東部からバングラデシュ一帯では、竹の一斉開花はほぼ例外なく疫病や飢饉を伴い、現地の人々は深刻な被害に見舞われてきた。1959年に発生したミゾラム州での一斉開花では、住民蜂起が起こったほどだ。 アジアその他の地域でも、同様の大惨事が起こってきた。香港では在来種のBambusa flexuosaとBambusa chuniiが50年おきに開花し、1800年代後半の一斉開花の際には腺ペストの症例が急増した。記録によれば、このとき同時にネズミの個体数も急増しており、竹の一斉開花が間接的に感染症流行に寄与したと考えられている。 被害を抑える取り組みとして、竹の開花周期の記録やネズミ対策の改善が行われているものの、この現象は依然として予測不能の恐るべき力を秘めている。農村地域、特に竹が豊富に生育する地域では、飢饉の記憶はいまだ鮮明であり、単純な植物の生活環がもたらす危機に警鐘を鳴らしている。 竹の一斉開花は、進化が生んだ驚異の同期現象だが、その結果は複雑に入り組んだ相互依存と混乱の網の目の様相を呈している。これは、外来種であるオオヒキガエルの大増殖がオーストラリアの生態系に与えた被害を彷彿とさせる。 竹の種子はネズミの個体群にとっては天恵だが、ひるがえって人間の地域社会にとっては厄災の種となる。天然資源であるはずの竹林が、危機の震源となるのだ。 竹の生活環の研究は続いている。一斉開花とネズミの個体数増加のダイナミクスを理解できれば、将来への備えの強化につながるだろう。その間にも、インド北東部やその他の被害地域に暮らす人々は、いずれまた竹の花が咲くということを知りつつ、その重荷を背負って生きている。
Scott Travers