新天地はゴルフ場、池に落ちた球拾うマレーシアの元海軍兵
【AFP=時事】マレーシアの海で、20年以上にわたって国を守ってきた元海軍・水中工作員のスマディ・イブラヒムさん。彼は現在、ゴルフコースの池に潜り、ボールを拾うことで生計を立てている。 【写真】ボールをシャツいっぱいに入れて池から上がるスマディさん(その他全10枚)
スマディさんは22年にわたり海軍に所属し、配備された船に乗ってサメの多い近海をパトロールしてきた。しかし51歳になる今は、首都クアラルンプール近郊にあるゴルフコースの池へ夜に飛び込み、昼間に誤って打ち込まれたボールを探す日々を送っている。1回で集まるのは500~600球。それをボールをなくして困っているプレーヤーに売り戻している。
水中工作員としての仕事を終えたスマディさんは、もっと一般的な道を選ぶこともできた。それでも彼は、深さの誘惑にあらがえなかった(もっとも、コースの池は2メートルの深さしかないが)。スマディさんは笑顔で「ずっと海で過ごしてきたからね」と話す。
「ゴルフボールダイバー」という珍しい仕事があると知ったのは、友人と会話をしているときだった。興味を引かれ、培ってきた専門技術を生かして初めて濁った水に飛び込んでみたのが2012年のこと。その後、2014年に退役した後は、この仕事が主な収入源になっている。
週に3回、グリーンが夜の闇に包まれる中、スマディさんは花柄のマスクを口元に巻いて池のボールをさらう。「懐中電灯は使わない。光源は月明かりだけだ」「手をワイパーがわりに使い、何かが手や足に触れれば、ボールかどうか分かる」。シュノーケルなどは使わず、拾ったボールはシャツの中にしまう。だから水から上がるときには、おなかのあたりがたくさんのボールでごろごろしている。
■一般の平均月収の3倍の月も
海軍時代よりも危険は少ないように見えるが、別の難しさがある。水温は低く、視界も悪いので、体力と精神力が試される。スマディさんは「ヤシのトゲやごみ、割れたカタツムリの殻などがたくさん落ちていて、暗いからよく踏んでしまう」「体がつるのも怖い。それに備えて、助手を雇って陸から見張ってもらっている」と明かす。