令和最初の日本ダービーでなぜ波乱が起きたのか?
「道中の手応えは良かった」とレーン騎手は言う。だが、サートゥルナーリアは外から脚を伸ばし、直線3番手まで上がったものの、イン有利の馬場を2番手で進めた同厩舎のロジャーバローズも簡単には止まらない。上がり3ハロンはメンバー最速をマークしたが、最後は脚が上がったような形での4着。ディープインパクト以来14年ぶりとなる無敗のクラシック2冠制覇は成らなかった。 「前の馬との距離を考えると早めに仕掛けざるを得ない流れになってしまい、その分、最後は伸びなかった」 ガックリと肩を落としたレーン騎手。だが、そのレーン騎手は直後の目黒記念では単勝3番人気のルックトゥワイスを完璧なまでにエスコートし、重賞初制覇に導くのだから皮肉に輪をかけたような形になった。皐月賞を叩き台にしてまで目標にしていた大一番で敗れたショックは大きい。レース後、サートゥルナーリア陣営は今秋に挑戦する意向を示していたフランス凱旋門賞を断念した。 一方、勝ったロジャーバローズには追い風が吹いていた。リオンリオンが逃げて1000メートルが57秒台の高速レース。その先行馬を2番手でマークしていたロジャーバローズの浜中騎手は「ペースが速くなったほうがいい。思っていた中で一番いい展開」と考えていた。展開に恵まれたのである。 絶好枠の1枠1番を引いたことも味方した。仮柵を移動し内有利になる近年のダービーは1番枠が08~10年にディープスカイ、ロジユニヴァース、エイシンフラッシュと3連勝し、その後も13年にキズナが勝っている“勝利の枠”。また浜中騎手は、京都新聞杯から騎乗していた。このレースでは2着に敗れたものの、賞金を加算し、ダービーの舞台に立てることになった。 「1度実戦でも騎乗させてもらったので、クセを把握した上でレースを組み立てていこうと思っていました。理想としていた形はあったのですが、実際の競馬でもその通り、すごくいい形になりました。スローペースのヨーイドンの競馬は分が悪いので、ある程度速いペースで流れて後続になし崩しに脚を使わせる競馬をしたいと思っていたのですが、その通りの形になりましたね」 坂を上るところで逃げたリオンリオンをかわすと、「差されてもしょうがないという気持ちで押し出しにいった。馬が辛抱して一生懸命走り尽くしてくれた」と浜中騎手は言う。 レース直前の想定外のアクシデント、そしてレース展開……波乱が起きる条件は揃っていた。 07年ウオッカ以来のダービー制覇となった角居調教師は複雑な表情だった。 「うれしいことと悲しいことが重なったので、ちょっと複雑ですね。ウオッカで勝った時はワケが分からない感じでしたが、今回は1番人気の馬で負けてしまったこともあり、複雑な思いもあります」 奇しくも日本ダービーで1、4着でゴールしたのは昨年の友道康夫調教師のワグネリアン、エタリオウと同じ。しかし、両馬は人気を上回る好走で、今回のパターンとは状況が異なる。 「ロジャーバローズは先行するにはいい枠(1枠1番)に入った。前にいける馬だから、こういう競馬になるだろうという展開になった。サートゥルナーリアが出遅れたので、他の馬はみんな動けなかったのかなとも思いました。最後はロジャーバローズもよくがんばっていましたし、サートゥルナーリアもどこまで来るのかという思いで見ていました。ただ、1番人気の馬で負けたこともあり、申し訳ないという気持ちもあります」 レースを分析した角居調教師に最後まで笑顔はなかった。 予期せぬ結末が待っているドラマ性もまたダービーの魅力なのかもしれない。