『虎に翼』梅子が「家族を捨てた」理由と、花江が「家族を支える」理由の意外な共通点
6月25日(火)第62回:亡霊のように人々を縛り続ける「家制度」
案件の担当という立場上、梅子に対してよそよそしい態度に徹しようとこらえる寅子だったが、部屋に戻ってきた彼女の顔を見ると、思わず顔を綻ばせて涙声で駆け寄る。久しぶりの再会を喜び合う2人。 柔和な物腰でその場の空気を和らげてしまう梅子の本来の人柄や魅力が、大庭家の中にいるときは一切発揮されないのが切なく心苦しい。 轟法律事務所に連れられ、山田よね(土居志央梨)や轟太一(戸塚純貴)と再会を果たした梅子が、壁に書かれた日本国憲法14条を見て、自然と桜川涼子(桜井ユキ)や崔香淑(ハ・ヨンス)のことを思い出すのも、胸が熱くなる場面だ。 大庭家の遺産相続は、すみれの遺言書が偽造であることが早々にバレて、法律上の相続人のみになったが、話は一向にまとまらない。 梅子の長男・大庭徹太(見津賢)は、自身も弁護士であるにもかかわらず、旧民法下での家長としての権利を主張し、梅子と弟たちに相続の放棄を迫る。 次男の大庭徹次(堀家一希)は、あろうことか「母さんだけ放棄すればいい」と言い出す始末。母は家のために犠牲になって当然、とみなすような態度である。それに対して、「私は放棄しませんよ」と主張する梅子も、大庭家の嫁としての立場に対する意地を見せているようにも思える。 新民法によってなくなったはずの「家制度」だが、そのくびきは亡霊のようにいまだ人々を「役割」で家に縛りつけている。そのことは、猪爪家の家事をみずからすべて背負い込もうとする花江の姿によっても示されているのだ。
6月26日(水)第63回:3人の息子たちがそれぞれ抱える問題点
話し合いでは折り合いがつかず、家裁に調停の申し立てが行われた大庭家の相続問題。 弁護士であるはずの徹太が、家長である自分がすべて相続する、と新民法を意に介さないような主張に固執することには違和感がある。だが、それも「知ると理解は別物。そう簡単にこの国に染みついた家制度の名残は消えん」ということを強調するためなのだろう。 夫に似てしまったことで見切りをつけた長男と、この子だけは染まってほしくないと連れて行こうとした三男の狭間で、次男である自分を置いて逃げたという梅子の負い目を突く徹次。 ただ、彼が酒に溺れてひねくれた性格になったのは、復員兵特有の戦争PTSDの可能性も高く、確かに徹次の境遇には同情すべきところもある。その点は、適切なケアを彼に受けてほしいとも思う。 光三郎は、自分の扶養に入りたいと勝手なことを言う祖母・大庭常(鷲尾真知子)に、「お母さんに意地悪しない」ことを交換条件に掲げる。しかし、梅子が常の世話をすることを自明のこととして疑っていないあたり、彼もまた梅子の意思を無視している“根深さ”がわかる場面だ。 梅子の3人の息子たちはそれぞれに問題を抱えているが、梅子は「3人手を取り合って生きていってほしい」「息子たちの誰かが損することがないようにしたい」と願う。「自分の幸せ=息子たちの幸せ」になってしまっている時点で、彼女もこの段階ではまだ“自分の人生”を生きられていないのだろう。 一方、亡き父・猪爪直道(上川周作)譲りの「俺にはわかる」を繰り出し、花江が道男に恋していると確信する直人(琉人)。この「年上女性と年下男性の意外な恋」というのが、実は明日の展開へと繋がるミスリードになっていたのが面白い。