『虎に翼』梅子が「家族を捨てた」理由と、花江が「家族を支える」理由の意外な共通点
6月27日(木)第64回: 梅子が高笑いで吹っ切った家族の呪縛
光三郎がすみれと通じていた衝撃的な展開。あえて子供の頃の無垢な“光三郎ちゃん”を視聴者に見せておいて、寅子のようにその成長に感慨を抱かせてから裏切るという、鬼のような脚本である(褒めてます)。 しかし、もっと衝撃的だったのは、それを聞いた梅子の狂気すら滲む涙ながらの高笑いだ。 梅子が「降参」「白旗」という表現を使ったのは、「どいつもこいつもクソ」(よね談)で自分勝手な息子たちの教育の失敗と、その背後にある根強い家父長制への敗北を思い知らされたからだろう。 自分が人生を犠牲にして尽くしてきたのはこんなものだったのか、という徒労感と呆れと諦念が入り混じった、どうしようもない感情が溢れ出ている。 そんな彼女が選択したのは、相続も、大庭家の嫁としての立場も、息子たちの母としての務めも、一切を放棄することだった。 ここで彼女が民法第730条を誦じるのが痛快である。大庭家から出て姻族でなくなってしまえば、梅子が常を扶助する義務はなくなり、直系血族である息子たちにその任を押し付けることができるのだ。 かつて、民法改正時に神保衛彦教授(木場勝己)があえて残した保守的な旧民法の名残のような条項を、逆に利用するという見事な伏線回収にもなっている。 そんなアクロバティックなことができたのも、梅子が法律を学んでいたからこそ。彼女の去り際の「ごきげんよう」は、単なる自嘲や開き直りや自暴自棄ではない。家族という呪縛を断ち切り、嫁でも妻でも母でもない自分の人生を生きることにした、一人の女性の“勝ちどき”の「ごきげんよう」に聞こえてくるではないか。彼女はようやく、「人生で一番輝いていた」と回顧する女子部にいた頃の自分を取り戻したのだ。 その姿はまさに、「女性が誰かの犠牲にならずに自分の幸せをつかみ取れるようになった」と寅子がラジオで語った言葉の実践そのもの。そのラジオを神妙な顔で聞いていた花江が、このタイミングで梅子と再会することで、いったい何を思うのか。 最後のカットで、意図的に花江を映さず画角の外に外しているのも、明日への引きとして気が利いている。