犬はいつ人と暮らし始めた?50年ぶり発見、風変わり犬から探るイエイヌ起源
イヌはどこから来たのか?イヌとは何者なのか?
イエイヌの起源は、他の家畜化・栽培化された動物や植物の品種と同様に、生物の進化を考察する上でかなり興味深い事実や謎が隠されている「ニワトリ家畜化の起源」の記事参照)。チャールズ・ダーウィンも犬種の多様性 ── 例えば、超小型のチワワから超大型のグレートデン、活発な狩猟犬からずんぐりしたブルドッグ(またはカウチポテト化したポチ等)に魅せられた生物進化学者の一人だ。その犬種間における変異性の高さの秘密に迫るため、ドッグブリーダーの元に足しげく通っていた。そして(他の家畜動物や栽培植物の品種とともに)犬における考察を、「自然選択説」の構築に大きく採り入れている。 ダーウィンの主著「種の起源」の第一章は「家畜化における変異」のデータを紹介することからはじめているのは偶然ではないはずだ。犬などの品種の中に見られる多様性に、生物進化に関する「大いなる秘密」が隠されていると考えていたはずだ。 さて、今回発見されたニューギニアの犬種は、どのような情報を我々に与えてくれるのだろうか? 遺伝子のデータは、まず初期犬種間の進化系統樹における関係(=具体的な位置:こちらの記事参照)を教えてくれるはずだ。もしこの犬種が、最も初期の犬種だとすると、狩猟に適したこの犬の習性や行動様式は、最初期のイヌの姿を鏡のごとく、垣間見せてくれてはいないだろうか? 狩猟という目的が果たして人類と犬たちの深い絆をつくる際、直接の動機として働いたのだろうか?(注:狩猟の他に愛玩用、番犬用、宗教用などさまざまな可能性(仮説)がイヌの家畜化の起源として提案されている。) そしてこのニューギニアの犬達は、全ての多数存在する犬種の「直接の先祖ではない」という事実も、改めてここで確認させていただきたい。イエイヌの直接の先祖は、はるか昔に存在したものだ。(1万5000年から13万5000年前のいつ頃なのだろうか?)。こうした長い時間を経てニューギニアの犬達が行動様式を変化させてきた可能性は当然ある。他の犬種、それともオオカミなど亜種と交配して、変化(進化)してきたかもしれない。生物進化のプロセスはなかなか一筋縄では見渡せない。 家畜化における「狩猟仮説]を検証する際、オオカミとイエイヌの枝分かれの時期は、ここで再び非常に重要となる。家畜化が初めて行われた時、人類の狩猟技術はどこまで発達していたのだろうか? もしかするとネアンデルタール人が登場した中期旧石器時代(約30万年から3万年前:大まかなつくりのナイフのような剥片石器が使われだした)から、クロマニヨン人などホモ・サピエンスが人類の主流となった後期旧石器時代(約3万年から1万年前:ハンマーストーンやキリ、彫刻刀のようなものなど石器の高度化が進んだ)にかけて、イヌの家畜化が進行した可能性がある。 もし、この狩猟仮説が真実だとして、イヌが具体的にどのような役割を担っていたのだろか? 以前紹介したマンモス(こちらの記事参照)の狩りの供をしていたイヌが存在していたかもそれない。(狩猟用のイヌの登場がマンモス絶滅の引き金になった可能性はなかっただろうか?) 東アジアにおいてイヌが「16,300年頃中国の揚子江一帯にて誕生した」という説も発表されている(Pang等2009)。この時期は、ちょうど狩猟から農耕へと、人類が新たな生活様式へ移行した時期にあたる。もしかして、犬が何か大きな役割を果たしたのだろうか? Pang, J.-F., C. Kluetsch, et al. (2009). "mtDNA Data Indicate a Single Origin for Dogs South of Yangtze River, Less Than 16,300 Years Ago, from Numerous Wolves." Molecular Biology and Evolution 26(12): 2849-2864. 新たな初期のイヌの研究結果が発表される度に(いくらかの)「驚き」をもって、その内容に耳をかたむけるのは、おそらく私だけではあるまい。一連のデータや研究結果が、私の想像力を大きく超えることが起きるからだ。この事実は、犬の起源と初期進化が「かなり複雑なプロセス」を経てきた可能性を暗示しているのかもしれない。もし初期のイヌは、オオカミ等とかなり頻繁に交配を行っていれば、mDNAのデータを分析する際の大きな障害になることだろう。太古の人類はイヌの価値や重宝さにすぐ気づき、大陸をまたいだ、かなり長距離の文化交易をシルクロードなどを通して行われたのではないだろか? Men’s best friends「人類にとって最大の友」と呼ばれる犬達。一説には、イヌの家畜化が初期人類の多様性、そして後の文明化に多大な貢献を与えたともささやかれている。日本国内において991万5千匹の犬が(2015年に)正式に登録されている。加えて未登録の個体もかなりいることだろう。他の動物種と比べて、これだけ人間の生活に密着しているものは、(ネコをのぞいて)他にいない。どうして犬達は人間と共存することを選び、そして大成功を勝ち取ったのだろうか? 犬の進化の歴史は、かなり奥行きが深く興味深い。そして個人的な(研究対象としての)思い入れもあるので、書きはじめるとかなり長くなる。また折をみて、今後もいくつか取り上げてみたい。今回はまずオープニングということで、大まかな流れをここにまとめさせていただいた。