阪神、日本ハムなどで活躍の坪井智哉が引退表明
球団フロント間の連絡の行き違いだった。宿無しとなった坪井は、GM兼任監督のようにチームのすべてを仕切っているホブソン監督に訴えたが、「今探しているから」とのつれない返事。ホームステイ先が決まるまで、仕方なく自費でのホテル暮らしを続けたが、いつまでたっても音沙汰がない。元々、給料自体も、月に15万円もないという厳しい条件だったが、登録を外されると、その間、そのなけなしの給料さえ出ない。そんな坪井に同情したチームメイトが「俺のところに来い」と救いの手をさしのべてくれ、そのホームステイしている先に頼み込んで転がりこんだ。だが、エージェントを通じて、ホブソン監督から「坪井は何を勝手なことをしているんだ。今すぐ家から出ていけ」と理不尽な連絡が入って追い出された。 坪井は、またチームメイトの協力を得て監督に内緒で新しいホームステイ先に移ったが、ベッドもなく、ソファで寝泊りする毎日……。「そのソファが、その家の犬が今まで寝ていたベッドでね。僕が、そこを独占すると犬が怒る(笑)。犬と寝場所の取り合い。今ではネタとして話ができるが、情けなくなって。肩も手術して調子がよく、肉体的にどこにも問題のない元気な状態だったのに野球ができないということほど、つらいものはない。まだ住むところがあれば、チャンスを待てるが、それさえ与えられない。必要とされてない感がヒシヒシと伝わってくる。それは孤独で辛く、気持ちの悪いものだった」。 アマチュア時代から、ずっと野球のエリート街道を歩いてきた坪井が、40歳にして初めて味わう屈辱。グラウンドの競争社会の中で振り落とされるなら、まだ我慢はできるが、寝る場所も与えられないという人間の尊厳にかかわる部分を傷つけられ、坪井はついに引退という決断を選択せざるをえなくなる。 アメリカへ渡る際には、同級生でオフには共に自主トレを続けてきたイチローに相談した。「おまえが野球をやりたいならばやればいい。家族の意見が第一だろうけど、後から考えて後悔するような選択が一番よくない」という言葉に背中を押された。