ボルボの衝突試験取材から考える 国産メーカーの「物足りなさ」【復刻・クルマの達人】
自動車評論家であり、プロドライバーでもある国沢光宏氏が、本誌『ベストカー』にてクルマ界の様々な事象に毎号舌鋒鋭く切り込む連載「クルマの達人」。数ある執筆記事の中から、ボルボの衝突試験の取材を通して考えたことについての記事をプレイバック!(本稿は「ベストカー」2013年10月26日号に掲載した記事の再録版となります) 【画像ギャラリー】ボルボの衝突試験取材から考える 国産メーカーの「物足りなさ」【復刻・クルマの達人】(3枚) 文:国沢光宏
■ボルボの衝突試験の取材を通して考えたこと
10年ぶりにボルボ本社の衝突試験センターの取材をしたら、思わずウナってしまった。以下、要旨をば。 日本の自動車メーカーの物足りなさは、国交省が決めた衝突試験以外のテストを行なわないことにある。 例えばオフセット衝突試験なら64km/hと決まっているため、それ以上の速度で衝突させる試験を行なわない。 ほかのクルマと衝突させる時の角度だって決まっており、それ以外の事故形態はコンピューター上でしかチェックしません。 いっぽう、実際に発生している事故を見ると、逆に「同じ形態」などあり得ない。 当たり前ながら事故の状況はひとつひとつ違う。なぜ日本の自動車メーカーは国交省が決めた試験しか行なわないのだろうか? この質問、ほぼすべての自動車メーカーにしてみた。 皆さん共通して「ほかの試験をやらない理由」を熱心に説明してくれます。つまり「やろう!」という気持ちより「やっても意味なし」と思っている。昨今の「事なかれ主義」が衝突試験まで到達している? ボルボの主張は明確かつ「そうでしょうね!」だった。 曰く「実際の事故を分析することによりクルマの衝突安全性を高められる」。 保険金が60万円以上(4500ユーロ)掛かる4万2000件/7万人の事故内容をすべて徹底的にチェックし、そのなかから年間20~30件について再現試験を行なっているのだという。 つまりデータの少ない事故形態が発生したら、そいつを再現させ、車体ダメージとダミーの状態を解析しよう、ということである。 今や走行中の車両と車両を衝突させる試験はどこのメーカーでも行なっている。 真正面だけでなく、角度を付けて衝突させる試験も行なう。しかしボルボとホンダを除き、衝突させる角度が決まっているのだった。 日産は5度きざみ。トヨタなんか15度きざみ。つまり実際の事故の再現を想定していない。 もちろん速度だって同じ。基本的にオフセットやクルマ同士の事故は64km/hで行なう。これまた実際だとあり得ないこと。