1万件超の事案を手がけた元裁判官が「人生を棒に振らないための実用書」を書いたワケ
1万件超の裁判事案のエッセンスを凝縮
―― ところで、瀬木先生は、33年間にわたって裁判官として民事訴訟に携わられたわけですが、和解を含めてどのくらいの事案を扱ってこられたのでしょうか? 瀬木件数だけでいくなら、最高裁に勤務した時期を除いた大半、30年足らずで、1万件以上扱っているでしょう。うち、本格的に争われた事件だけでいうと、3割程度、3千件余りかと思います。 ―― 膨大な数ですねえ!そうした事件処理の経験も、本書には生かされているわけですね。 瀬木そのとおりです。 私の法律書は、専門書でも一般書でも、実務家、裁判官としての経験・知見を、明示的あるいは潜在的な基盤にしています。 本書も同様であり、特に、本書については、裁判官時代に蓄積していながらこれまではあまり生かす機会のなかった「法的紛争・危険予防のための知識と方法」のエッセンスを凝縮しています。
裁判実務と研究の両立から得たもの
―― 退官されてからは、大学で民事訴訟法や民事執行・保全法等を教えていらっしゃいますが、こうしたアカデミズムの経験は、本書にどのように生かされているのでしょうか? 瀬木先ほどもお話ししたとおり、裁判官時代にも長く研究はしていたわけですが、大学で研究と授業に専念するようになり、民事訴訟法の体系書・教科書も出版・改訂し、従来の研究に新たな知識や知見が加わって、「私なりの民事訴訟法学の全体像」が体系的にまとまったと思います。 本書についていえば、その全体を支えるヴィジョン、いわば氷山の水面下の部分に、私が大学教授生活から得たものが生きていると思います。 ―― こうした実務とアカデミズムの双方を体験されている法律家は、どのくらいいるのでしょうか? 瀬木双方を体験しているだけというなら、今ではかなり多くなってきています。 もっとも、実務家は大学では客員の実務家教員が大半で、純粋な法律科目は教えていません。逆に、学者で長い実務経験をもつ人もまれです。 私は、33年間の裁判官体験、11年の専任教授体験、そして約40年の研究歴があります。また、専門書は、主著だけでも、民事訴訟法と民事保全法の体系書・教科書を含め、6冊があり、それらは、法曹からも学界からも評価されています。 以上は、日本の法律家としてはまれな経歴だと思います。