1万件超の事案を手がけた元裁判官が「人生を棒に振らないための実用書」を書いたワケ
最高裁調査官や東京地裁裁判長も務め、裁判官として1万件超の事案を扱ってきた大学教授・瀬木比呂志さんが、人が一生の間に遭遇するあらゆる法的トラブルを防ぐ方法をまとめた実用書『我が身を守る法律知識』(講談社現代新書)。 【写真】なんと現代日本人の「法リテラシー」は江戸時代の庶民よりも低かった? 裁判官だった瀬木さんが、裁判に至る前の「予防」の「実用書」を書いた理由はなぜなのか?最近よく耳にする「予防法学」とは何か?瀬木さんにお話を伺った。
読者を子孫まるごと法律紛争から守りたい
―― 瀬木先生の作品は、これまで司法批判や民事訴訟法関連の専門書などが中心でしたが、今回はかなり実用的な書籍ですね。なぜこのような本をご執筆になられたのですか?執筆の動機を教えてください。 瀬木ずっと以前から、普通の市民が一生の間に出あいうる法的紛争や危険のすべてに対処できるような法的な知識、また法的なものの考え方を1冊の本にまとめたい、それは多くの人々の需要・要望に沿うものともなるだろう、と思っていました。 私は、裁判官を務めながら研究をも行ういわゆる「学者裁判官」だったわけですが、そんな裁判官として蓄積してきた知見に、大学教授に転身してからの11年間に積み上げた学者としての新たな見方をも加えて、読者とその家族・子孫の生活をあらゆる法的紛争から守りうるような1冊の書物にまとめたのです。
思いがけない法的紛争が増えている
―― しかし、普通の日本人にとって、訴訟はあまり縁のないものなのではないでしょうか? 瀬木はい。ごく普通の日本人にとって、訴訟や法的紛争は、一見遠いものに感じられると思います。 しかし、訴訟の数自体は、欧米に比べれば少ないものの、それはいわば氷山の一角です。水面下に当たる部分に、訴訟にまでは至らない膨大な数の法的紛争があるのは、日本も全く同じことです。 また、社会の複雑化、情報化に伴い、普通の市民が思いがけない法的紛争や生活・取引上の危険一般に遭遇する可能性も、非常に高くなってきています。 日本もそういう時代に突入したのですから、元判事、また学者・著者として、この本を書くべき時期がきたと思ったのです。 付け加えれば、私は、専門書や司法批判以外に、『民事裁判入門』〔講談社現代新書〕、独学・リベラルアーツ関連の一般書、エッセイや小説も書いてきました。ですから、司法批判についても、「法と社会」という大きな枠組みを踏まえながら行ってきたつもりです。 この本は確かにより実用的な書物ですが、そういう意味では、つまり背景にある問題意識としては、これまでの書物ともつながっているのです。