岸洋佑、主題歌を担当した『追想ジャーニー リエナクト』への思い「ど真ん中でぶつかりました」
■設定が自身とリンク「もう本当に横田雄二は僕ですよ」 戻りたい瞬間も吐露
――物語は、なかなか筆が進まない脚本家という設定です。曲作りも同じような感覚に陥ることはありますか? 【岸】1行目の歌詞に「本音なのか建前か 筆を執っては何かを捨てる」とあるんですけど、これがまさにそうです。曲を書いたり、歌詞を書いたりすると、人生のどこかがなくなるんです。例えば、すごく好きな女の子がいて、その子との大切な思い出を書いてしまったら、もうそれは自分たちだけの大切な思い出じゃなくなったりするんです。人生の中にあるものを、どんどん出していかなきゃいけないと思うんです。だから脚本家という仕事も書けば書くほど、たぶん人生がなくなっていくんだろうなって。 ――劇中でも、現在の横田が過去の横田に経験を積むように助言するシーンがありましたね。 【岸】そうなんです!本当にその通りな気がしていて。「遊びは芸の肥やし」という言葉は今の時代には合っていない、みたいなことありますけど、たぶんすべてを否定するべきじゃないと思っていて。経験があるからこその部分もあると思うんですよね。 ――身につまされる話なんですね。 【岸】もう本当に横田雄二は僕ですよ(苦笑)。 ――劇中同様にアドバイスとして言いたいことが言えるなら、どんなことを言いたいですか? 【岸】「きのう、夜に牛丼を食うなよ」的なレベルで毎日のように過去に戻りたいです(笑)。 ――ターニングポイントになったところでは? 【岸】あるとすれば、LDHという事務所に所属させていただいた時に、ダンスを踊らないという選択をした彼に対して「踊っとけ」と言いたいです。もし、あの時に人生で1番嫌だと思った踊りというものを、今のメンタルで一生懸命できたのであれば、きっと僕は東京ドームに立っていたと思います。その人生が良かったかわからないですけど。だから、そんな人生もきっとあったはずなのに、そこを自分で手放した。しかも、ほんの小さな「ダンスを踊らない」という選択で。そこで踊るという選択をしていた場合の世界と、踊らないという選択は大いに違いました。目の前で「ダンス嫌?」と言われた時に「嫌です」と言ったあの一言で、僕は大きく変わりました。だから、それだけは戻れるなら戻りたいなと思いますし、唯一選択に対して後悔してることだと思います。 ――なぜ踊らないという選択を? 【岸】15歳、16歳なので大した理由はなかったと思います。だけど、ただ単に僕はダンスが苦手だったということと、当時憧れていたダンス&ボーカルグループのボーカルは踊らないのがカッコいいと思っていたから、ああなりたい、と。ただ会社の方からしたら未来を作ってるわけで、踊れた方がいいじゃん、と。今ならわかるんですけど、当時はわからなかった。その選択だけは今でも夢に出てきます。たぶん深層心理で後悔しているんだと思います。 ――過去に戻った上で現在の横田は、あったかもしれない自分に対して未練はありませんでした。 【岸】すごくよくわかります。たぶん、みんな人それぞれ、過去に対して言いたいことはあるけど、そんなに後悔はしてない気がするんです。それが人間だなと思います。それもあって、いっけいさんのお芝居によって、めちゃくちゃ共感できました。僕も、ただ昔の自分がいたら言えたら言いたいんですよ。 ――どんな人にも刺さる映画ですよね。 【岸】絶対にそうだと思います。後悔しないように生きようと思っても無理ですから。それが、また心地いいんですよね。やっちまったことも楽しんでいます。 ――きのうの牛丼も、きっとおいしかったでしょうし(笑)。 【岸】おいしかったです(笑)。やっちまったなと今は後悔してますけど。