「それって陰謀論じゃないですか?」闇の国家「ディープステート」を信じる著名人一人一人に会ってみたら…どうなった?
取材を申し込んだが、限られた字数でディープステートなどを説明するのは「不可能」とし、批判的な意見と比較されるのは「読者の理解に資するか否かにも疑問がある」として拒否された。このため、馬渕氏だけは会えていない。 馬渕は外務省を2008年に退官し、11年まで防衛大学校教授を務めた後、執筆活動に入った。評論家の古谷経衡はこう評する。「著作の内容は当初から変わっておらず、一貫した陰謀論者だ」。2021年の著書「ディープステート 世界を操るのは誰か」を出版したワックによると、同書の累計発行部数は7万部に上る。 この本の中では「世界を陰から支配する勢力(ディープステート)は、確かに存在している」と明記している。「特定の本部建物があるわけではなく、課題に応じて世界の仲間が集まって必要な決定を行っている」とも記しているが、どこに集まっているかなどは書かれていない。 荒唐無稽と受け止められる内容がちりばめられているが、インターネット上には、馬渕の主張を称賛するコメントが目立つ。「はっきりと真実を語っている」。60代の女性も心酔する一人だ。「隠された真実が書かれていて、目が開かれる思いだった」
古谷は中高年を中心に影響力を広げていると指摘する。「多くの人が元大使の肩書だけで信じている」 ある外務省関係者は強い不快感を示した。「大使の経歴を背景に陰謀論を広めるべきではない」 ▽「正しさ」への固執につけこむ 4人の人々が語った「ディープステート」の存在。どう考えればいいのか。専門家の京都府立大准教授・秦正樹氏に聞いた。 陰謀論の特徴は、因果関係が逆転している点にある。ある組織がたくらみをもって動いていると考えるのは、たとえばジャーナリズムの世界でもあることだが、それが十分な証拠を持って論理的な説明が成り立つかどうか、厳しく精査する。しかし、陰謀論者は反証を挙げても、無視するか自分の望み通りの結論に合うよう解釈をねじ曲げてしまう。 私は大学生時代、ネトウヨ(ネット右翼)だった。在日コリアンが不当な特権を享受していると思い、日本をつぶそうとする『闇のプロジェクト』があると信じ込んでいた。それに合う情報だけを集め、証拠があると思い込んでしまう。大学院に行って論理的に考えるようになり少しずつ変わっていったが、最初は批判に反発していた。