「民主主義」が問われた一年 2015年の日本政治を振り返る
安倍首相が自民党総裁に無投票3選
さて、安保法制以外にも、2015年には、民主主義をめぐるさまざまな論点を照らし出す出来事が続いた。 9月8日には、自民党総裁選で安倍首相が無投票で再選された。野田聖子氏が出馬を模索していたが、推薦人が集められずに断念した結果である。アベノミクスを成功させ、さまざまな政策課題を処理していくには、党内で争っている余裕はないとの意見も強かった。しかし、ここに潜む「競争の不在」の問題にも目を向けるべきである。 民主政治がうまく機能するためには、政治家や政党の間で活発な競争がなされ、有権者に有効な選択肢が提示されていることが重要である。55年体制と呼ばれる自民党長期政権時代には、政党間の政権交代こそなかったものの、派閥の間で活発な競争がなされることにより、擬似的な政権交代が実現していた。 しかしいまや派閥の力は衰退し、首相一強といわれる体制となっている。安定的に政策を実行する上では首相一強は好都合であるが、人々の多様な意見をくみ上げて政策に反映させたり、後継者を育てて政党の活力を維持したりする上で、党内での競争が果たす役割は無視できない(特に、下記のように政党間の競争が活発でないならば、せめて政党内での競争が活発であるべきだろう)。 野党の動向についても同様のことがいえる。11月に、与党との距離感の違いなどにより維新の党から分裂した「おおさか維新の会」が設立され、野党陣営はさらに断片化することとなった。強い与党に対して野党陣営が分裂している状態は、市場における独占企業の存在と同様に、ある種の「不完全競争」だといえる。政治という市場に健全な競争が取り戻せるかどうか、野党再編・野党間協力の行方が注目される。
辺野古移設で政府と沖縄県が訴訟合戦
12月には、米軍普天間基地の辺野古への移設問題をめぐって、国と沖縄県が訴訟合戦を繰り広げるという事態になった。ここにも民主主義の抱える難題があらわれている。 民主主義はしばしば多数決と同一視されるが、単純な多数決では少数派の利益が損なわれてしまう。実は、世界の民主主義には、多数決を重視するタイプと、少数派を含めた合意形成を重視するタイプの二つがある。前者の典型は英国であるが、同国が民主主義のモデルであるかのように見られてきたため、民主主義と多数決が同一視される傾向が生まれた。しかし、スイスなど大陸ヨーロッパ諸国では、後者のような合意重視型の政治運営が見られる。合意形成もまた、民主主義の大事な要素なのである。 多数派と少数派が反発しあったままでは、問題の最終的な解決は望めない。多数派と少数派の間をどのように調整し、合意を形成していくか、民主主義の真価が問われている。まずは、当事者双方が、互いの立場を理解するよう努めると同時に、自己の立場も柔軟に考え直していく態度で、丹念な対話(熟議)を積み重ねていくしかないのではないか。
■内山融(うちやま・ゆう) 東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など