騙されるのは「情弱だから」ではない…大勢の被害者を見てきた弁護士が指摘する「詐欺師に狙われる人」の共通点
詐欺や投資トラブルに巻き込まれやすい人にはどんな特徴があるか。詐欺事件を専門的に扱っている杉山雅浩弁護士は「情報に疎い人が騙されると思われがちだが、それは違う。『自分は騙されない』と思い込んでいる人ほど注意してほしい」という。ライターの黒島暁生さんが聞いた――。(前編/全2回) 【写真】“詐欺撲滅”を掲げる杉山雅浩弁護士。過去に投資詐欺で600万円をだまし取られたことがある ■被害を立証するのは意外と難しい “詐欺撲滅”を掲げて活動する弁護士がいる。スピネル法律事務所(東京都豊島区)代表・杉山雅浩氏だ。これまで多くの詐欺事件の民事裁判において、詐欺師たちを追い詰めてきた。 日常会話において私たちは簡単に「それは詐欺だ」などと口にするが、構成要件に該当することを立証するのは意外と難しいと杉山氏は話す。詐欺事件解決の難しさと、被害を回避するための方法を聞いた。 ――投資家9000人から計850億円を集めた投資会社「エクシア」が10月に東京地裁から破産開始決定を受けました。杉山弁護士は、エクシアの代表に契約解除を求めた訴訟で、6億円の被害額を取り戻したと聞いています。投資トラブルにおいて、被害を受けたことを立証することは難しいと言われていますが、なぜでしょうか。 簡単に言えば、証拠をすべて揃えるのが難しいからです。たとえば投資詐欺であれば、加害者が「あなたから預かった金を×××という会社で運用して、その利益のうちマージンを引いてだいたいいくらをバックします」と約束したとします。 その場合、被害者から加害者にお金が流れていることまでは立証できたとしても、その後の経緯などすべてを立証できないと、証拠として不十分になってしまうんです。つまり、本当に×××という会社は存在するのか? 本当に運用はしたのか? という点を全部洗う必要があります。いま単純化して説明しましたが、現実はより複雑です。
■6億円の被害額を取り戻すことに成功 たとえば、エクシアの事案では、私はまずエクシアの代表に対して被害者とエクシアとの契約解除を求める民事訴訟を起こし、勝訴しました。 エクシアの定款には「社員権の払戻金について、代表の裁量によって払戻を拒否できる」という規定がありました。簡単に言えば、被害者が出資したお金の払い戻しを要求したとしても、代表の権限で拒否できるというものです。エクシアの代表はこの規定を使い、出資金の払い戻しを拒否するようになったのです。つまり、被害者は自分のお金を取り戻せない状態が続いていたということです。 民事訴訟では、この規定自体の無効、裁量権の逸脱を主張し、このことが裁判所から認められました。その結果、エクシアの口座にあった6億円を仮差押えすることができたのです。その次に代表の自宅の動産執行をし、執行官の方と直接乗り込んで、家財道具の一式を差し押さえました。 ただ、構造の複雑さでいえば、エクシアの事案も非常に複雑なものでした。たとえば末端の社員などを捕まえたとしても、「代表がやっていたので、運用していたのかどうなのか、本当に知りません」となってしまう。巨大な組織になればなるほど、細分化されてしまって全体像を見ることはできなくなってしまいます。 また、一般的に騙される人は「まさか自分が騙されるとは思っていなかった」と驚いていますから、やり取りを録音するなど、証拠を保全することは非常に稀です。そもそも相手の話を録音するほど警戒している人なら、詐欺には引っかからないですからね。 翻って、騙す側は当然「カモにしてやろう」という意識で近づきますから、足のつくような真似はしません。そもそものスタートラインにおいて、差があることがおわかりになるかと思います。 ■金を受け取った「動機」と「使い道」が重要 ――被害者が加害者にお金を振り込んだ、などの事実だけでは証拠とならないわけですね。 そうです。AさんがBさんにお金を振り込んだことは事実として認定されるとしても、それがどのような意図で行われたのかを完全に立証するのは容易ではありません。極論をいえば、騙し盗られたのではなく厚意で差し上げた可能性も否定できないですよね。 加えて、条文(*1)にも「人を欺いて」とあることから、Bさんに詐欺の意志があったのかどうかを証明できなければ、詐欺事件とは認められないわけですね。 (注) (*1)刑法第246条 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の拘禁刑に処する。 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。