プロ初完封の広島森下と4戦4敗の阪神藤浪の何がどう違ったのか
5回二死までパーフェクト。梅野にセンター前ヒットを打たれ、9回も二死から近本にセンター前へ2本目のヒットを許したが、無四球で、ノーヒットノーランどころか、パーフェクトゲームを成し遂げていても不思議ではない衝撃の内容だった。 何が良かったか、と聞かれ、森下は「ストレートが本当に良かったと思います」と自己分析。12奪三振の理由についても「ストレートをしっかり投げることができたので他の変化球が生きたのかなと思います」と答えた。 無四球もプロ初。「ここ最近、フォアボールばかりを出していたので、ストライクが先行できて良かったと思います」と投球を振り返った。 現役時代に阪神、ダイエー(ソフトバンク)、ヤクルトでプレーした評論家の池田親興氏は、森下のピッチングをこう解説した。 「楽天の岸を彷彿させるような大きな落差のあるタテのカーブをうまく使って緩急をつけた。真上から投げ下ろす角度とスピン量の多さが特徴のストレートが軸になったが、今日は、緩急がある上に、カット、チェンジアップと、どのボールもカウント球、勝負球に使えるくらいコントロールが安定していた。理由はぶれないフォームにある。左足を上げて一度止める、いわゆる二段モーション。動作を一度、止めたところで意識的に真っすぐに立ち、軸足、背筋にピンと1本の重心を残すことで、スムーズに体重移動が可能となり、次に左足の踏み出しに入る際に、本来ならマウンドの傾斜に負けて起こりうる体のブレが少なくなっている。森下が美しいのは顔だけでなくフォームも(笑)」 快投の秘密は精密機械のように美しいフォームにあるようだ。 一方の藤浪は初回に崩れた。西川、羽月に連打を許し、一死一、三塁から4番の鈴木誠也にフォークを拾われて先制タイムリー。さらに続く松山に2点タイムリーを浴びた。問題は、この投球だ。155キロのストレートを松山は簡単にバットをコントロールしてミートしたのだ。腕が横振りとなってシュート回転していた。スピードガンの表示ほどボールは来ていなかったのである。 3回には、先頭の長野にコントロールが定まらず、フルカウントからの7球目が頭部付近へスッポ抜けた。悪い時の藤浪を彷彿させるボール。長野は打席でひっくり返った。続く鈴木にはストレートを狙われた。150キロ表示の高めをセンター前へ。打球が詰まったことで、無死一、三塁とされ松山のショート併殺打の間に4失点目である。 そして最悪が6回。二死二塁から8番の田中を申告敬遠し、万全を期して9番の森下との勝負を選択したが、カットボールを三塁線へ打ち返され、2者の生還を許したのである。「あそこに飛ぶのはボールが甘い」と矢野監督が指摘した失態である。 評論家の池田氏は2人の違いをこう分析した。 「藤浪のボールは、打者がスピードガンの表示ほど速いと感じず、今日は変化球でストライクを取れなかったので広島はストレートを狙い打ちしていた。コントロールを重視している段階の藤浪には、これまでのようなボールの勢いがないので、初回に2点タイムリーを放った松山は、155キロ表示のストレートをいとも簡単に合わせるようにして打った。タイミングを取ることに苦労していなかったのだ。森下と、投手のタイプが違い、2人を比較することはナンセンスではあるが、森下のストレートは148キロでも、それ以上の速さを体感として打者が感じ、藤浪のストレートを打者は脅威に感じていなかった。ボールの質の違いと言えばいいのか。森下のボールはスピン量が多く、初速と終速、つまりメジャーでいうボールの沈む度合いの少ないタイプだが、藤浪のボールの質は真逆だった。緩急をつけることのできた森下と変化球の制球に苦労して緩急どころではなかった藤浪の違いも勝敗に直結したのだと思う。森下は疲労などをうまくカバーしてシーズンを通じてローテーを守れば、まず2桁は勝つだろう。藤浪は制球難を克服してピッチングができるという第一段階から次のステップへ進む段階。問題は、そこで首脳陣が何を求め、藤浪自身が4試合をどう総括して次のステップへ進む考えなのかということ。復活の可能性は十分にある」 この日は対照的な結果になってしまったが、ここまで4試合に先発した藤浪のピッチング内容を見る限り、昨秋から中日OBの山本昌氏や、米シアトルのスポーツ施設「ドライブライン・ベースボール」などの協力を得て取り組んでいる新しいスタイルの成果は出ている。決して悲観すべき状況ではない。2人が共に中6日でローテーを回れば今月の28日(マツダスタジアム)に再びマッチアップする可能性がある。