凶器にもなり得るクルマだけにある程度のハードルは必須か? トラックのプロが「AT限定免許」に疑問を唱えるワケ
ドライバーの質が低下する恐れも
近年では、アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故が多発している。これは高齢ドライバーに多いのはいわずもがなであるが、クラッチが存在するMT車であれば、状況は大きく変わっていただろう。文明の発達は得てしてわたしたちの暮らしを快適なものへと導いてくれるが、ときとして牙をむくことにもなりかねない。 それゆえ、大型トラックのAT化も例外ではない。明らかに技術不足だと感じるドライバーが増えているのだ。運転が容易になったことで生じる弊害は、それだけではない。眠気を誘い、そしてスマホなどを見ながら運転して(できて)しまうという悪循環を招いている。さらには乗り心地がよくなるエアサスの普及により、プラスの反面マイナス的な要素も大きくなっているのである。そんな現在であるからこそ、大型トラックの事故が多いのもやむなしだと感じてしまうのだ。 かつてのトラックはMT車が当たり前で、また板バネと呼ばれるサスペンションが用いられていた。そのころと現在を比べると、その進化には素直に驚かされてしまう。しかし、そんなせっかくの文明の発展も、乗り手側の行動によってマイナスへと動いてしまうのだ。運転がラクになったからといって、緊張感をなくしてはならない。 最近ではトラックが好きで乗るのではなく、仕事だから仕方なく乗るという割り切った職業ドライバーが増えてきた。それもトラック事故を増やしている要因であるのは間違いないが、いくら便利なものであっても使い方を間違えると、簡単に他人の命を奪ってしまう凶器へと姿を変えるということを忘れてはならない。 個人的には諸手を挙げて賛成できない、AT限定免許制度の導入。2023年では、AT限定免許が約7割だという統計が出されている。国がドライバーの質を下げるように誘導をしておきながら、交通事故が絶えない責任をドライバーに押し付ける。そんな時代を駆け抜けるのは大変なことだが、妙な運転をする車両からはすすんで距離をとるなどの対策をしながら、なんとか乗り越えていきたいものである。
トラック魂編集長 隅田真