「一体感のある現場は、奇跡が起こります」佐野広実×江口洋介×蒔田彩珠『誰かがこの町で』ドラマ化記念鼎談
「一体感」のある現場は奇跡が起きる
――『誰かがこの町で』は、同調圧力により個人が自分の意見を自粛し、反対意見は封じ込められ、やがて暴走していく狂気が描かれています。同調圧力をどのように捉えていらっしゃいますか? 江口:ある程度、秩序のようなものは必要だと思っています。秩序があるから、人間はするべきことに集中できる。そのために自制はしますが、それも限度がありますよね。ただ、私は真崎のように組織で働いていないので、過度な自制を求められた経験がないんです。 佐野:真崎は、「皆がこうしているから」と、命令や空気に従い、犯罪に加担する状態まで追い込まれた過去がありましたね。 蒔田:同調圧力と、皆の心がひとつになることは、違うとも思っています。撮影の場合、チームがひとつになるといい作品になるとも感じます。 江口:この作品の撮影現場の一体感は強かったですね。皆が緊張感を持ち、尊敬し合っていました。自分のやるべきことを考えながら、相手の仕事もやりやすいように動いていく。それは同調圧力とは明らかに違います。 蒔田:そういう現場は奇跡が起きるんですよね。 佐野:作品に、赤ちゃんが出てきて、絶妙なタイミングで手を上げるんです。赤ちゃんに演技はできません。あそこで手が動いたのは奇跡的だと感じました。 江口:自然現象など意思でコントロールできない偶然を味方にしてしまうのが、一体感マジックなんですよ。その意味でも、『誰かがこの町で』はいろんな気づきがあるはずです。 ――今の時代は、同調圧力が強く、集団の意思に流された方が楽な場合もあります。微かな変質に目をつぶり続けた結果、自分が自分でなくなってしまったように感じる人もいるのではないでしょうか。 この作品の登場人物は、違和感と向き合い「ダメなものはダメだ」と声を上げて行動をしています。その姿に、あなた自身が気づかないようにしてきた、悲しみや怒りの形が浮き彫りになるはずです。ハラハラ・ドキドキのミステリー作品として楽しみつつ、自分の価値観を取り戻し、自分の人生を当事者として生きるヒントも、きっと見つかるはずです。 <江口洋介> ヘアメイク:中嶋竜司(HAPP'S.) スタイリング:伊藤省吾 (sitor) <蒔田彩珠> ヘアメイク:山口恵理子 スタイリング:小蔵昌子 佐野広実(さのひろみ)/1961年神奈川県生まれ。1999年「島村匠」名義で第6回松本清張賞を受賞。2020年『わたしが消える』で第66回江戸川乱歩賞を受賞。2022年『誰かがこの町で』が大ベストセラーに。『シャドウワーク』、『サブ・ウェイ』など、現代社会が抱える可視化しにくい問題や不安を描いた作品で心を掴む。 江口洋介(えぐちようすけ)/1968年東京都生まれ。1986年にデビュー後、ドラマや映画など多方面で活躍。近年では、映画『ゴールド・ボーイ』、ドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1 ~東京湾大海戦~』『忍びの家 House of Ninjas』などに出演。映画「大きな玉ねぎの下で」の公開を2025年2月7日に控える。また、シンガーソングライターとしても活動し、26年ぶりのNEW ALBUM 『RIDE ON!』が好評発売中。 蒔田彩珠(まきた あじゅ)/2002年神奈川県生まれ。主な出演作に、映画『万引き家族』『朝が来る』などがある。2021年前期NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』では、ヒロインの妹を演じ注目を集める。2023年は主演作『わたしの一番最悪なともだち』(NHK総合)が話題に。2024年は映画『ハピネス』、ドラマ『忍びの家 House of Ninjas』ほか多くの作品に出演している。 『連続ドラマW 誰かがこの町で』 2024年12月8日(日) 午後10時放送・配信スタート(全4話) 出演:江口洋介 蒔田彩珠 ほか 原作:佐野広実『誰かがこの町で』(講談社文庫) 監督:佐藤祐市 脚本:前川洋一 製作著作:WOWOW 番組特設サイト https://www.wowow.co.jp/drama/original/darekaga/ 『誰かがこの町で』佐野広実著 講談社 誰もが憧れる「選ばれし者」だけが住める、閑静で治安がよく、文化度も高い高級住宅街。しかし、そこには、住民たちの同調圧力があった。自ずと発生してしまった村八分、誰も指示していないのに、起こる犯罪……。外界から隔絶された町で、19年前に何が起きたのか。不満と我慢が膨張した先にある、死や惨劇の根源を追うサスペンスミステリー。
現代ビジネス編集部