「一体感のある現場は、奇跡が起こります」佐野広実×江口洋介×蒔田彩珠『誰かがこの町で』ドラマ化記念鼎談
よそよそしくするところから、撮影がスタート
江口:本作では、温度感や明度・彩度を出さないよう2人の関係性を一度リセットし、よそよそしくするところから、このドラマの撮影がスタートしました。 蒔田:私が演じた麻希も真崎同様に孤独な女性です。身内と呼べる人がおらず、施設に預けられ、18歳まで生きてきたという背景を持っている。両親さえいない彼女は、自分の存在そのものの拠り所がない。そんな人生を歩んできた人は、どんな性格なんだろうと、麻希と向き合い、気持ちの変化を表現していきました。 江口:真崎と麻希の離れた距離が近くなることと、物語の進行が重なっています。蒔田さんは、そういう時間の経過や間合いも表現し、どんどん演技の引き出しを増やしていると感じました。「(『忍びの家 House of Ninjas』の)お父さん」としては、「娘」の成長がわかって嬉しかったなぁ。 蒔田:ありがとうございます! 佐野:麻希が出生の秘密を握る町に、単身で乗り込んでいき、真崎がそれを追う。日常を脅かされ、危機を乗り越えるたびに、冷えていた関係が温かくなっていくことが、言葉がなくても伝わってきました。 江口:映像化の話が来てから小説を拝読し、作品として完成していると思ったんです。「俺はここまで完璧に出来上がっている世界で、何をすればいいんだ?」と迷いました。ただ、映像は小説では表現しにくい、微妙なニュアンスを伝えられることが強みです。そこを追求していきました。 佐野:『誰かがこの町で』は、物語も登場人物の関係性も重いですよね。どんな雰囲気で撮影したんですか? 蒔田:明るく、柔らかく進んでいきました。小説と同じように「近藤農園・源泉館」が、避難地域のような場所になっていて。でんでんさんが演じる近藤利雄さんの周りで、私たちもスタッフさんも和んでいました。 佐野:源泉館で麻希が味噌汁を飲んで、微かに笑う蒔田さんの演技に、心を掴まれました。 蒔田:そんな細かいところまで見てくださっているなんて! 江口:8回もループしてくださっていると、微細なところまでわかるんですね。このドラマは、話は重いですが、監督の佐藤さんはとてもユニークでコメディも得意な方なんです。 蒔田:演技においても、特にプレッシャーを感じませんでした。というのも、佐藤監督は「こうしたい」という明確なプランがあり、本番前に私たちに意図をはっきり伝えてくださったから。意見を交わしやすい雰囲気の中で、撮影は進んでいきました。