「ゴッドハンドを目ざす!」欧州で独自の治療法を追求する“敏腕フィジオ”のもとに日本代表戦士たちが続々!「メンタルと筋肉は関係します」【現地発】
夏に治療院を開業。「やっとスタート地点に立てた感じですね」
桑原はいま、『人間の身体を知ること』にモチベーションがあるという。そこを突き詰めることで、「他のフィジオに診てもらったけれども、治らなかった人を治してあげたい」のだという。 「オランダはどうしてもエビデンス主義なので、科学的根拠のある方法でしか治療しない。患部を直接治療するほうがエビデンスを取りやすいので、肩なら肩、膝なら膝の治療しかしませんが、他に原因があるケースだとオランダでは治りづらい。『もう少し幅広く診てあげれば早く治るのに』と思うこともあります。中国鍼だってエビデンスは取りづらいですけれど、治療効果は高いですものね。 クラブ・フィジオのトップの言うことを聞きながら我慢して働ければ、いずれ僕がそのクラブのトップに立てる自信はあります。しかし、僕は科学的根拠のない治療も含めて、自分のやり方を突き詰めて『ゴッドハンド』のような存在になって、その先にサッカークラブからオファーがあればいい。そのためにも治療院を作り、これまで治せてもらえなかった人たちの痛みをなくしたりやわらげたりして自身の評判を上げていきたい。この夏、治療院を開業しました。オランダに来て10年、やっとスタート地点に立てた感じですね」 目ざすのはトップ。「一流の選手と、一流でない選手の違いは何か」というテーマを持ってブラジルのサッカークラブを回ったとき、ジーコたちから「メンタルだよ。そこしかない」と言われたという。 「『チームでは全員、同じ環境でトレーニングをしているから、そこで選手の差は生まれない。何が差を生むかというと、グラウンドに行くときに上を向いて行くのか、下を向いて行くのか。その向上心のある・なしが一流と一流でない選手を分ける』と言われて、僕のなかで腑に落ちた。 フィジオとして選手をサポートする立場として、そういうメンタルのところに僕も関わっていきたい。そのためにも僕自身のレベルが上がらないと、選手と会話をしていてもいい影響を与えることができません。会うだけで影響を受けたり元気が出たりする人がいるじゃないですか。そういうレベルの高さが、僕の目ざすところ。トップレベルのビッグクラブで働くことはひとつの要素になると思います。おのずと一流選手の身体を触ったり、メンタルを知ったりすることができますので、さらに人の身体に対する探究心がそそられると思います」 東洋思想の混じった桑原の治療メソッドに共感するオランダ人もいたから、彼はアルメレ・シティ、エクセルシオール、スパルタといったオランダのプロサッカークラブで仕事をする機会を得てきた。しかし、入団してから実務に励むとどうしても治療法のフィロソフィーがぶつかってしまう。そこで一旦、サッカークラブという枠組みから飛び出して、誰もが認めざるを得ない絶対的な存在『ゴッドハンド』になってからサッカークラブで働こうと目論んでいる。 母国語で商売道具の身体を安心して預けることのできる日本人フィジオの存在は、欧州でプレーする日本人選手たちにとってかけがえのない存在だ。しかし、桑原が欧州のトップクラブを目ざす以上、日本人選手以外のサッカー選手たちをより多く顧客にすることが今後の課題になる。アムステルダムに治療院を開業したことは、多くのオランダ人に桑原の施術を知ってもらう契機になるだろう。 取材・文●中田 徹
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