「ゴッドハンドを目ざす!」欧州で独自の治療法を追求する“敏腕フィジオ”のもとに日本代表戦士たちが続々!「メンタルと筋肉は関係します」【現地発】
「アイツは好き勝手なことをしている」という目で見られることが多かった
オランダのアマチュアクラブやプロクラブで経験を積みながら、桑原は「患部と違う場所を診ることも含めて選手の怪我を治したり、痛みをなくしたりする」というメソッドを確立していく。脳神経に刺激を入れて身体全体を緩めることで、膝の痛みが和らいだりすることもある。足首の痛みには、必要があれば肩のエクササイズを取り入れたりする。 しかし桑原のメソッドは、オランダやベルギーのサッカークラブでは異端。アマチュアクラブでも、プロクラブでも、桑原は「アイツは好き勝手なことをしている」という目で見られることが多かった。2019年から1年間在籍したシント・トロイデン(以下STVV)でもそうだった。 「オランダやベルギーは、『足首に痛みがあったら、患部をダイレクトに治療することで治す』という考えです。でも、僕のやり方は『この肩の痛みは他のところから来ているのでは?』と考え、身体全体の関節のバランスを取ったり、患部以外の場所を整えたりしたりする包括的な治療方法です。STVVのフィジオのトップは僕のやり方を理解してくれませんでした。サッカークラブで働く以上、僕が組織に合わせるべきだったんでしょうが、それでは自分のやりたいことができない」 しかし、桑原の治療法は選手たちの間で評判が良かった。特に、エースストライカーの鈴木優磨(現鹿島)は彼のことをすごく気に入り、桑原が朝、STVVに着くと誰よりも先に鈴木を治療するのがクラブ内での暗黙の了解になった。やがて鈴木から「ヒデさん(桑原)、俺の専属にならない?」と誘われた。 クラブのポリシーと、自身のメソッドの狭間に葛藤していた桑原は、鈴木のオファーを受けた。鈴木の専属トレーナーに転じても、STVVの日本人選手、韓国人選手、アルゼンチン選手たちが治療やエクササイズを受けに桑原のもとを訪ね続けた。 鈴木から選手を紹介されることもあった。鹿島時代の同僚、町田浩樹(現ユニオン)は2022-23シーズンの前半戦を、鼠径部の負傷で欠場した。当時の町田はクラブと話し合ってパリの専門医で手術することになっていた。 「彼を診始めて3回目くらいのときに、僕が『これは手術するような負傷ではない。日本に帰って集中して治療したほうがいいですよ』と話したところ、本人も同様の考えでいて日本にいるトレーナーの方と連絡を取って、ユニオンの許可をもらってから日本に戻り、集中して治療することで復帰できました」 伊東純也(ヘンク/現スタッド・ランス)、斉藤光毅(スパルタ/現QPR)、三竿健斗(ルーバン/現鹿島)、吉良知夏(現テルスター)、中村敬斗(STVV/現スタッド・ランス)、橋岡大樹(STVV/現ルートン)、シュミット・ダニエル(STVV/現ヘント)...。日増しに桑原が診る選手たちが増えていった。そのなかでもやはり鈴木優磨との付き合いは特に濃かった。 「優磨が地元に帰省したときを除いて一年中、一緒にいました。彼がパリに旅行しに行っても、僕は同行して治療してたんです」
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