過去には韓国国内で有害図書にも指定。ノーベル文学賞受賞のハン・ガンの小説を読み解く
韓国の作家であるハン・ガン(韓江)が、アジア女性初のノーベル文学賞受賞という快挙を成し遂げた。ハン・ガンは1970年の生まれで、今年まだ53歳だが、歴代のノーベル文学賞受賞者のなかでも飛び抜けて若い。 しかも彼女は、2016年には英国の権威ある文学賞「国際ブッカー賞」、2017年にはスペインの「サンクレメンテ賞」など国際的に著名な賞をすでに6つも受賞している。 筆者の住むソウルでは、ノーベル文学賞受賞のニュースに、大型書店の前にはハン・ガンの小説を買おうと長蛇の列ができ、彼女自身が運営している書店では1日で全著作が売り切れ、数日間休業するという状態になるほどであった。 彼女の父親は小説家の韓勝源で、兄弟も文学と関連のある一家で、父親の小説まで売り上げが伸びたという。しかも株式市場でも、書店株が高騰するなど、ハン・ガン人気は止まらなかった。 ◾️ハン・ガンの作品が「有害図書」に しかし、そんな彼女の作品が、韓国の一部の地域では「有害図書(正確には『青少年に不適切な性教育図書』)」に指定され、昨年は学校の図書館では廃棄処分になったり、閲覧に制約がかかったりしていたという。 有害図書に指定されたのは、彼女が2007年に発表した『菜食主義者』という小説だ。 内容としては、姉の夫である義兄と妹との性関係が赤裸々に描かれており、暴力的な表現もあることで、「全国学父母団体連合」という保護者団体が、教育庁に廃棄を要請した。これにより、京畿道教育庁は京畿道内の学校に「有害図書」の 勧告をしたという。 この問題については、国会の教育委員会の国政監査でも議論された。野党議員らはイム・テヒ京畿道教育監に対し謝罪を求めた。しかし、イム教育監は「学校の図書購入や廃棄は各学校の図書審議委員会の権限であり、(ハン・ガンの小説は)教育的に保護者たちが心配する部分がありえる」と答えた。 そんななかで、今度は彼女の叔父がSNSで姪にむけての手紙を投稿して話題になった。牧師である叔父は「『菜食主義者』はわいせつ性や青少年有害性において批判されるべき」で、「青少年はもちろん大人にも推薦できない作品」とまで批判した。 また、ハン・ガンの別の作品である『少年が来る』(2014年発表)や『別れを告げない』(2021年)についても、「一方の観点だけで事件を評価している」とし、「政治に迎合するような作品を書いてはならない」と指摘した。 『少年が来る』や『別れを告げない』は、韓国現代史の悲劇であり闇とも言える大事件を背景としている。『少年が来る』は、1980年代に起きた光州の民主化運動、『別れを告げない』は韓国の済州島での四・三事件を扱っている。 どちらの事件も、韓国では「触らぬ神に祟りなし」のような事件である。なぜなら、事件が見る角度によって意見が真っ二つに分かれてしまうからだ。良い悪いの問題ではなく、そうするしかなかったという意見(保守派)とこれは虐殺だ(進歩派)という意見があり、見方によってとんでもない違いがあるからだ。