「GAFA vs トヨタ」? バーチャルとリアルの戦いの実相
「バーチャルかリアルか」なのか
話としては刺激的で面白いが、「仮想通貨があれば現金がいらない」という類の話と同じで、世の中の現実はそんなにドラスティックには変わらない。現実はプラットフォームを制した方が有利であり、長期的には仮想通貨の利用範囲が広くなっていくという程度だろう。 さて、そういう現在のビジネスを踏まえて、商品・サービスをざっくりと分類するとこんな風になる。 (1)バーチャルだけで成立するもの (2)リアルだけで成立するもの (3)部分的にバーチャル化できるもの (1)に相当するのは音楽配信や動画配信など、完全にweb上でサービスが完結できるものだ。 (2)は美容室やマッサージなど対面でしか行えないサービスだ。対面かつサービスを行う人の技術やキャラクターに依存する。もちろん予約システムや広告などにバーチャルの入り込む余地はあるが、極めて限定的である。 (3)がおそらく圧倒的に多い。多くのビジネスはバーチャルサイドとリアルサイドを持っている。例えばカーシェアなどでは、予約などはバーチャルサイドでまかなえるが、現実のクルマを置く拠点やメインテナンスなどはリアルサイドでしかできない。 このように、多くのビジネスにおいて「バーチャルとリアル」が両方必要である点を理解しておかないと、表題の「GAFA vs トヨタ」のような対立軸で「どっちが勝つか?」という話になってしまう。ほとんどのビジネスがバーチャルとリアルの両方を必要とする以上、現実的にはそれぞれのサイドを得意とする企業が協業していくしかない。 トヨタが「MaaS」(マース=Mobility as a Service:移動のサービス化)への進出を決めた時、非常に面白い話を聞いた。トヨタは日本全国に販売会社を持っている。いわゆるディーラーネットワークだ。これらの会社の社長はほぼ例外なく地元の名士である。 地域にビジネスを起こす時、こうした人たちの人的ネットワークは強力に作用する。地域には地縁のネットワークがあり、それをよそ者が資本の論理だけで動かそうとしても上手くいかない。 善悪の問題ではなく、現実の問題として社会はややこしい。デジタルデータと同じようには扱えない。ましてや異文化を背景とする外資系企業がそうした社会に入って行くとなれば、一筋縄では行かない。 例えば、神社仏閣や地域の祭りを組み込んだ観光ビジネスをつくろうとした時、ただ「儲かりますよ」と言っても協力は得難い。神社仏閣はその本質は宗教施設であり、当然、儲かるからと言って何にでも協力するわけにはいかない。祭りも地域の文化であり、しきたりや習慣がある。「大相撲の土俵に誰が上がっていいのか」というような問題は、論理の問題ではなく感情の問題だ。それをコンビニで買い物をするように代価と引き換えに何でも提供してもらえると考えるのは、世界観が単純過ぎる。しかし、地域の暮らしに溶け込んで、さまざまな地域行事に地域の一員として取り組んできた人が、相手の立場と擦り合わせて調整し、お願いすれば話は変わってくる。 ピカピカの未来図だと思われているMaaSだって、そういう地縁の世界と無縁には設計できない。それが人間社会のリアルだ。