小学生に英語を学ばせたい親が意識するべき“たった一つ”のこととは?
■「日本を脱出させたい」という考えは尊敬されない 3つ目の「将来の選択肢を増やしてあげたい!」という親御さんは最近多いですね。芸能ニュースを見ても子どもをインターナショナルスクールに通わせたり、教育目的で海外移住したりする事例が増えています。 たしかにいまの日本に明るい材料は乏しく、激烈な受験戦争を経て国内の有名大学に入り、晴れて日本の大企業に就職できたところで待っているのは安い給料と市場の縮小とグローバル経済の大波です。そんななか、「最悪の場合、日本を脱出してほしい」と考える親御さんが増えるのは自然なことでしょう。 しかし、私自身は、こうした前提自体が怪しいと考えています。少子化や市場の縮小は、今となっては先進国だけでなく新興国でも起こっている課題ですし、生まれ育った共同体を見捨て、機会主義的に漂うだけの英語遣いは、どこに行っても尊敬されない危険性と隣り合わせです。 どのようなケースを想定しても、英語自体の習得目標をどこに置くか、英語以外のスキルをどのように獲得するか、そうした目的設定や過程に親御さんがどのように関与すべきか、簡単な答えはありません。 教育者として誠実に生徒や親御さんに向き合うほど、生徒の学習データを丁寧に分析すればするほど、「安易な正解には飛びつかないほうが良い」と警鐘を鳴らし続けなければならないと思っています。
■小学生英語の肝は「英語嫌いにしないこと」 さて「目的が変わればやるべきことが変わる」と書きましたが、どんな目的であろうと小学生英語で共通している「やるべきこと」がひとつだけあります。 それは、子どもを「英語嫌いにしないこと」です。 「英語好きにすること」でも「英語をペラペラにすること」でも「英検に合格させること」でもなく、「英語嫌いにしないこと」が小学生英語で大人側が常に意識したいことであり、私が一番伝えたいメッセージです。 小学生は伸びしろしかありません。将来の選択肢も無限にあります。それなのに、何かの負の体験をきっかけに「自分は英語が苦手だ」「英語って面倒くさい」「英語は楽しくない」「英語はツラい」といったネガティブな感情が植え付けられてしまうと、大人になるまでその印象を引きずりがちです。その子が非凡な語学センスを持っていたとしても、小さいときの躓きがトラウマとして残って、英語と距離を置き、選択肢を狭めてしまう。これは本当にもったいないことです。 そんな悲劇が起きるくらいなら早期に英語を学ばせないほうがまだマシです。語学学習は生涯続くものであり、小学校で英語をやらなくても挽回の仕方はいくらでもあります。どれだけ英語の魅力を伝えても本人が興味を示さず、スポーツや楽器や趣味などに没頭したいというなら、「英語をやらせるのはいまではなかった」と割り切って、子どもがやりたいことをやらせてあげたらどうでしょうか。数年後、なにかがきっかけで英語に興味を示したり、必要性を感じたりする時期がくるかもしれません。 そのときに改めて周囲の大人がバッと動き、学習環境を整えたり、子どもの背中を押してあげたりするサポートができれば、それで十分だと思います。 また、小学生の時代に英語学習で成果があったとしても、中学生以降に学び続けなければ、あっという間に追いつかれたり、さび付いたりしてしまいます。この点は、大人も一緒です。語学で上達したければ、努力を続けなければならないのです。 だからこそ、「嫌いにならない」こと、「学習を放棄するきっかけを作らない」という消極的な目標を持つことが、長期的な成功の鍵と言えます。 〇斉藤 淳(さいとう・じゅん)/J PREP代表。元イェール大学助教授。上智大学外国語学部英語学科卒業、イェール大学大学院政治学専攻博士課程修了。2012年に J PREP 斉藤塾を起業。著書に『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)、『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』(KADOKAWA)、『アメリカの大学生が学んでいる本物の教養』(SBクリエイティブ)などがある。
斉藤 淳