<地域の足としての自動運転バス>運営を阻む3つのハードル、”背伸び”でなく現実解を
社会受容性を高めるのは説明よりも体験
三つ目かつ最も高いハードルは「社会受容性」である。「安全」を最優先にするのは日本の良さであるが、事故に対する受容性の低さは、新しい技術を導入する上では障壁となる。前出・先進モビリティの瀬川氏は「どれだけ技術が進歩しても、自動運転の事故を〝ゼロ〟にすることは難しい。どこまで社会がリスクを受け入れてくれるかが、社会実装の進捗を大きく左右する」と語る。 また、前出・MM総研の朝倉氏も「自動運転のデメリットを調査すると『安全性』を不安視する声が多く挙がるが、各地の実証後には乗車体験をした人の感想は好意的になる場合が多く、社会受容性は体験によって高まる」と指摘する。 「初めて見る車で最初はびっくりしたけど、乗ったら全然問題ない。無料なのが申し訳ないくらいに乗り心地も快適よ」 愛知県日進市の自動運転バスに乗車した77歳の女性は小誌記者にこう言って相好を崩した。今では週3回ほど利用する常連だという。 同市では22年度から仏ナビヤ社製車両を使った自動運転バス「ARMA(アルマ)」の実証実験を開始した。レベル2ではあるが、自動運転走行の割合は定時便で90%を超える。今年2月からは2台目も導入し、乗客を乗せての実証を続けている。2台目の運行ルートは名鉄日進駅前を出発し、ドラッグストアやスーパー、診療所を経由しながら住宅地を回る一周3.3キロ・メートルで、より市民の生活導線に即して設定された。 11月のある朝、小誌記者は日進駅前に停車したアルマに乗車した。車内に運転席やハンドルはなく、スタッフが補助操作に使うのは、モニターと家庭用ゲーム機のコントローラーだ。見慣れない光景に目を丸くする小誌記者をよそに、停車やカーブの走行も安定した車内では、〝常連さん〟同士の会話が弾む。この日は、膝を痛めて坂道の多い市内を歩くのが難しいと話す71歳の女性や、小さな子どもを抱えた女性など、1周で5人程度が乗降したが、皆安心して日常使いをしていた。