<地域の足としての自動運転バス>運営を阻む3つのハードル、”背伸び”でなく現実解を
地域交通のリデザイン選択肢を増やすために
国が掲げる自動運転移動サービスが全国に普及することに異論を唱える人は少ないだろう。 だが、地域の移動手段を確保するための選択肢は自動運転バスだけに限らない。東京大学公共政策大学院の三重野真代特任准教授は「交通事業者がいない地域では地域住民が交通の担い手にならざるを得ない。地域の互助活動による『ボランティア輸送』の方がコスト面でも適する場合もある。地域の人が求めるレベルに必ずしも自動運転のスペックが必要ではない」と指摘する。 技術の進歩に伴い、デマンド交通やライドシェアといった新たな手段も登場しているが、ここにも課題は多い。 地方自治体に特化したライドシェアサービスを提供するパブリックテクノロジーズ(東京都中央区)最高執行責任者(COO)の杉原裕斗氏は「路線バスの廃線をきっかけに交通再編をする場合、本来であれば、まずは運営を既存の交通事業者に担ってもらう形でデマンド交通を実現する『乗り合いタクシー』を検討するのが順当だろう。ただ、現状のデマンド交通は距離に限らず利用料金が一律かつ低額の設定になっている場合も多く、利用者側に寄り添いすぎたビジネスモデルになってしまっている。一足飛びにライドシェアを検討したとしても、タクシーと同等レベルの料金設定となっているため、公共バスに慣れている住民の利用ハードルは高くなるだろう。担い手にも利用者にもメリットがある形で導入するには、ライドシェアでの乗り合いを促進するなど、制度を組合わせて利用を増やしていく努力が欠かせない」と話す。 自動運転は最先端の技術を駆使した次世代モビリティの代表であり、自治体にとっても完全無人運転が実現すれば、最も理想の選択肢となるだろう。だが、現状は政府や自治体、事業者の掲げる目標や思惑が交錯し、仕様やレベルが〝乱立〟している状態にある。今後、地方の足として定着させるためにはどう進めていくべきか──。 佐渡市での実証実験に一つのヒントがある。前出・WILLER代表の村瀬氏は言う。 「自治体や事業者側の目線で計画したプランを住民に説明する形では、途中で認識に齟齬が出る。佐渡市のプロジェクトでは、どういった交通が必要かを考える上で、まず1年間、車座で住民から要望を聞いた。要望と運賃はトレードオフの関係にあるため、全てを反映することはできないが、住民にもそれを説明した上で、物流や観光、福祉、スクールバスとしての活用など、アイデアを出し合うことで、地域のニーズと収支の妥協点を一緒に見つけていった」 まさに地域の足として地域住民を巻き込む形で進めた事例といえる。 今後も自動運転技術は高度化していくだろう。だが、どれだけ最先端の技術を取り入れても使われなければ意味がない。導入にあたっては、地域交通全体をコストとベネフィットの冷静な見極めが重要だ。また、交通のリデザインは数年で完結できるものでもない。結論ありきの計画ではなく、自治体と住民が10年後、自分たちの暮らす地域がどうなっているのか、あるいは、地域をどうしていきたいのかという未来の姿を共有し、現実解を探ることから始めるべきではないだろうか。