ワーママへの''過剰な配慮''が、ママ社員の退職理由に⁉︎ マミートラック解消に向け企業が見直すべきこと
善意からの「過剰な配慮」がワーママの機会損失を招くジレンマ
── マミートラックは女性側の力量の問題ではなく、フェアな競争環境が未だ整えられていないことが問題の根本にあるとわかりました。その上で、「マミートラックが生まれた背景や、ワーママの抱える悩み」を理解できると、どこからメスを入れるべきかがより明確になる気がしています。 浜田 働く女性がマミートラックに陥り出したのは、2000年代頃からだと思います。それ以前の、私が朝日新聞社に新卒入社した1989年から1990年代までは、まだ子育てしながらフルタイムで働く女性は非常に少なかったんです。 それが2000年代に入り、短時間勤務制度や企業内保育所など企業による両立支援制度が充実していく流れが生まれました。これ自体は前進なのですが、一方で、子育てを理由に会社を辞めずに済むようになって生まれたのが、マミートラックという現象です。育休から復帰した職場で時短勤務を選べるようになったことで、時短勤務を理由に重要な仕事を任されなくなり、いつの間にか昇進、昇給が遅れ、ずっと同じ仕事しか任されない状況が生まれました。短時間でも十分仕事を任せられる能力があるにもかかわらず、短時間勤務というだけで期待されなくなる。それで本人たちはやりがいを失っていく。加えて、周囲からは「早く帰る人」と見られて二級社員みたいな扱いを受け、本人も「すみません、すみません」と言いながら罪悪感を抱いて働き続けることに。 そういう状況は2000年代からずっと変わっていないと思うのですが、どうですか?
稲田 ママたちの悩みはずっと変わらないように感じますね。 mogのサービスに登録している方は、現在1万3000人ほどいらっしゃるのですが、そのうちの8割は「いまの職場では新しい仕事にチャレンジできない」というマミートラックが理由で転職希望をされているんです。 よく企業さんからは、「ワーママは働き方をセーブしたいんでしょう」「だからリモートワークなど在宅で働ける環境がいいんでしょう」と言われるんですけど、逆なんです。転職希望をするママの欲求の多くが、「しっかりとキャリア形成をしたい」「責任ある仕事を全うできるようになりたい」なんです。それを実現するために、柔軟な働き方ができる会社に転職したい、という順番なんですね。 浜田 そこのギャップが全然埋まらないですよね。企業の上司側が思っていることと、女性側の思うことがずっとすれ違っている。 ギャップが生まれる理由のひとつが、いわゆる好意的差別と呼ばれるもの。今の時代の男性上司は、ハラスメントへの恐れもあり、「大変だよね」「早く帰っていいよ」と過剰な配慮が先行して、結果、何も任せないような状況が生まれてしまっています。 そういう景色を古巣でも目の当たりにしてきたのですが、私は「時短勤務のママ、めっちゃ仕事できますよ」と言いたいんです。私が在籍していたAERAのメンバーは女性が多かったけれど、保育園の迎えまでに仕事を終えなければならないという縛りがあるから、すごく効率良く働くしアウトプットの質も高い。それでも、「早く帰る=仕事ができない人」というバイアスがなくならない。