劣悪な環境に人手不足…日本が誇るアニメ制作のスキル継承に赤ランプ 業界団体が人材育成目指し「検定」制度をスタート
福井 はい、できるだけ早くからアニメ制作に興味をもってもらい、必要なスキルに気付いてもらうことなどが目的です。今は、(日本のアニメ業界が)ずっと継承していた技術が全部無駄になる方向に向かっている状態だと思います。何とかしたいですが、現場で数人に教えているだけでは間に合わない。検定を通じて、より多くの人に技術を伝えたいです。 ▽芸術として見てくれる人のために ―制作現場のスキル不足などが続いている状況は、作品の質に影響する可能性もあるのでしょうか。 福井 昨年、ドイツのアニメイベントで講演をしたところ、終わった後に聴衆の女性から「日本のアニメが好きで、昔の作品から今のものまでたくさん見ているが、最近のアニメは心がこもっていないように感じるが、なぜか」と聞かれて、驚きました。 原因として思い当たったのは…。昔はキャラクターの動きのカギとなる「原画」は5~6人でやっていましたが、1話にかけられる時間が減って、多人数かつ短時間で完成させるようになりました。一つの場面を細切れにして複数人で描くので、キャラクターの演技のまとまりが薄れてしまいます。
そうしたことが一因ではと考え、説明すると「日本のアニメが好きなので、良くなることを祈っています」と話してくれました。 アニメを、文学や映画と同じように芸術的な感覚で見てくれて、真面目に好きでいてくれる人たちがいる。こういった人たちの期待を裏切ってはいけないと思うのです。 ▽アニメーターは消耗品ではない ―人手不足や待遇改善も大きな課題ですね。 福井 アニメーターはフリーランスで出来高制のことが多く、新人時代には多くの枚数を描けず単価も安いため、収入が低くなりがちです。1枚約300円だとして、リテイク(描き直し)もあって、1枚仕上げるのに1時間かかるとなると、時給300円。1カ月に300枚仕上げても月9万円。これではとても食べていけません。 私も若いころは近所のお店で廃棄予定のパンの耳をもらって食べていました。若ければそんな暮らしが楽しいかもしれないですが、30、40代でそんな生活はできないでしょう。有望な学生に声をかけても、「お金を稼げず生活できない。親が反対する」と言われ、業界に入ってきてくれません。